Storyエスパルスドリームプラザ パークサイド
クライアント:株式会社ドリームプラザ 様
- 複合商業施設
- 企画・プロデュース
- デザイン・設計
- 制作・施工
- 内装監理
- リーシング
- 地域の活性
- アワード
- 中部
「防災」と「にぎわい」
どちらも叶う、港発の商業施設。



「防災」への対策は、未曾有の天災が続く昨今において年々重要性を増している。景観や、地域のにぎわいを守りながらも、どのように防災の機能を備えていくのか。静岡市清水区は、かねてより防災対策に頭を悩ませてきた地域のひとつである。港に隣接する商業施設エスパルスドリームプラザ、静岡県の管轄である清水港管理局、スペースの三者が連携し、地域の「防災」と「にぎわい」のどちらも叶える空間づくりの難題へと挑む。
不利な条件でも、
この港でやるから意味がある
国内外から多くの船が着き、海の玄関口となっている清水港。開港100周年を迎えた1999年を記念して、エスパルスドリームプラザは生まれた。施設を運営する株式会社ドリームプラザは、総合物流会社である鈴与のグループ会社であり「地域のための清水港日の出地区エリアの開発」を目的に、現存する施設に加え、新館を開発するプロジェクトをスタートした。担当の株式会社ドリームプラザ 営業開発部 部長の相埜(あいの)氏は、依頼当時をこう振り返る。

相埜 未散 様 / 株式会社ドリームプラザ
取締役 営業開発部 部長
相埜:「清水港は、およそ220年の歴史を持つ鈴与の発祥の地です。その中で私たちドリームプラザは、恒常的に地域のにぎわいをつくり続ける使命があります。商業施設を営む上では、地域の人に海側に来てもらう必要があるので、わざわざ足を運びたくなる理由が必要で、立地も不利な部分がありましたが、清水港で事業をやることに意義があると信じていました。だからこそ、地域の未来図を描いて、その上に開発をしていかなければいけないという思いが強くあったんです。そんなときに、あるテナントさんからご紹介いただいたのがスペースさんでした」

相埜 未散 様 / 株式会社ドリームプラザ
取締役 営業開発部 部長
施設が港に面していることも施設の特徴の一つだ。港湾の防災の観点から、隣接する施設であるドリームプラザへ清水港管理局からの要望もあった。
水谷:「海と地域をつなぐ役割を果たしていることも施設の特徴で、商業施設の中でも珍しいロケーションですよね。行政が構想する防災対策に、ドリームプラザさんのもつ地域の未来図を重ねて、どう協力してプロジェクトを進めていくのかがポイントのひとつでした」

水谷 淳 / プロジェクトマネジメント、設計
相埜:「そうですね。清水港のエリアの防災が課題としてあり、地域の20年後、30年後の将来を見据えて開発していく上で、共に手を取り合う必要がありました。結果として成功した要因の一つは、行政との折り合いをつける中で、いい意味で引かず『ここはこうあるべき』という部分を、スペースさんに導いていただいたことが大きかったです。地域の人にとっては、行政が管理しているか、民間が管理しているのかは関係ないですから。常に、この場所ですごす時間がより良くなるように、ご提案をいただいていましたね」

水谷 淳 / プロジェクトマネジメント、
設計
水谷:「清水の将来を考え、誇れるまちづくりをどう実現していくか。地域住民の視点も意識していくことが重要だと感じていました。特にこだわった点のひとつとして、土地のポテンシャルを活かして、客船から人が訪れる海側と、地域の住民の方々が訪れる道路側の、どちらに側にも『顔』を持たせた点があります」
相埜:「当初私たちとしては、海側を向いた施設を考えていたのですが、海から来る人も、街から来る人も、どちらにもオープンな空間を実現する方法を提案いただきました。こうした視点をはじめ、プロジェクト全体を通して『地域にとって、この施設の役割は何か?』という大切な考え方をスペースさんから学びました」
「防潮堤」と「商空間」を、
シームレスに
官民で力を合わせた、異例の挑戦
ドリームプラザの新館の開発に伴い、同タイミングで持ち上がったのは、静岡県の清水港管理局による防潮堤の開発という、地域にとっての一大開発だった。近接するそれぞれの所有地をシームレスにつなぎ、防潮堤の機能を持たせた。当時、行政としても異例のプロジェクトとなった民間連携の防潮堤の開発について、清水港管理局の局長 杉本氏とともに振り返る。

杉本 文和 様 / 静岡県清水港管理局
局長

齊藤 達矢 様 / 静岡県清水港管理局
企画整備課 整備班 総括主査
杉本:「静岡県では、津波対策として防潮堤を作ろうと整備を進めていました。ただこのあたりの地区には、客船が往来して多くの観光客が利用されることもあり、いろいろな制約があったため、県内でも防潮堤の整備が一番後手になっていました。年々台風や地震の被害が増える中で、地域住民に安心を守るためにも、開発が急がれる状況でした」

杉本 文和 様 / 静岡県清水港管理局
局長
水谷:「ドリームプラザさんと計画を進める中で、連携の話が持ちあがりましたね」
杉本:「当時、ドリームプラザさんからもお話を受けて、港湾が管理しているエリアも一体になって整備した方が、地域が盛り上がるのではないか。そんなことを思ってご相談したことを覚えています。景観を損なわないよう、土地の高さ自体を底上げしようという計画を立てました」
水谷:「港側の土地の高さを3メートルほど底上げし、ドリームプラザの新館までつないでいくという大胆な開発でしたね」
齊藤:「通常こういう公共事業で、ここまで民間とガッツリ手を組み、お話をしながら進めていくというのは、今までほとんどやったことがありませんでした。普通の道路事業であったり河川事業であったり、普通の公共事業ではすでに形が決まったものを作っていくことが多いので、かなり自由度が高く、チャレンジングな内容でした」

齊藤 達矢 様 / 静岡県清水港管理局
企画整備課 整備班 総括主査

毛利 慶 / プランニング、設計
毛利:「加えて、ドリームプラザさんのオープンの日が決まっていたため、期間が短いというのもハードルの一つでしたね」

毛利 慶 / プランニング、設計
齊藤:「そうなんです。最終的には、現場をやりながら設計を変更したり。どうしたらいいのか何度も相談して、たくさんご調整いただきましたね」
水谷:「おっしゃるとおり、限られた工期の中ではありましたが、せっかくつくるのだから、後世まで地域に誇れるものをつくろうというのがテーマでした」
清水港管理局が管理する公園部分と、ドリームプラザの敷地をいかにシームレスにつないでいくか、3社で何度も議論を重ねた。防潮堤としての機能を整備する中で、ドリームプラザの施設はテナントの大半を2-3階に集中させ、2階部分の橋で本館と新館をつなぐ現在の形となっていった。

渡邉 弘毅 様 / 静岡県清水港管理局
企画整備課 企画班 主査
毛利:「予算の関係もありながら、清水港全体として、照明や素材の一つひとつに至るまで、一体感のある空間づくりにこだわりました。公園と施設の境目がわからず、訪れる人が公園までドリームプラザの一部であると認識してしまうほどです(笑)。ドリームプラザや清水港管理局の皆さんが、街に対しての愛着があったからこそ、実現できたものだと思います」
渡邉:「地元の方が家族で訪れて、公園で走り回っていたり、デッキに腰掛けている方がいらっしゃったり。地域の方も海外の観光客の方も、すごく居心地のいい多様な場所になったなという実感があります」

渡邉 弘毅 様 / 静岡県清水港管理局
企画整備課 企画班 主査
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公園との一体感を演出するため、オープンエア型が採用された。
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行政・民間の管轄の境目で違和感を感じさせないよう、デッキもそれぞれ同じ素材を使用している。
大手テナントから地域の大学まで
全員が同志になる仕掛け
テナントや地域とのネットワーク構築をはじめ、ソフト面の仕掛けづくりにも工夫が凝らされている。持続的に地域に貢献することはもちろんのこと、長期的なブランドづくりを見据えてテナントを巻き込む戦略もその一つだ。提案はスペースの鹿島が担当した。
相埜:「特にグローバル企業の皆さんは『出店することによって、その地域の人たちに心から良かったと思ってもらえるか?』という高い意識でいらっしゃいます。そんな企業の皆さんにすでに寄り添って仕事をされているスペースさんにお力をお借りしました」

鹿島 大雅 / プランニング、
環境コーディネート、
クリエイティブディレクション
鹿島:「日頃から、ディベロッパーとテナントが、世の中に対して同じ目標を掲げることが一番の近道だと感じていました。同じ課題感を共有し、一緒に解決していく同志になることで、共感していただける全体の構想づくりをお手伝いしたいというお話をさせていただきました」

鹿島 大雅 / プランニング、環境コーディネート、
クリエイティブディレクション
理念を可視化して、関係者を巻き込んでいく。未来図を描くうちに、グローバルテナントである大手の出店と、地域のための活動への参画が決まった。
鹿島:「最初は1社だったのが、徐々に周りのテナントも手を挙げてくれて。やがて事業者だけではなく、地元の東海大学も共感してくれて、『そういうことだったらぜひ我々もやりましょう』と取り組みに参加してくれるようになりました。事業採算性だけではなく、ブランディングの視点から整理をしていくことで、施設や地域がどうなっていきたいのか、一つの形になっていきました」
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プレスリリース:エスパルスドリームプラザ新館「PARK-side(パークサイド)」東海大学や入居テナントと連携し、地域との共生を実現。※リリース時点(2023年11月8日)の情報です。
子どもたちが思い出す、
清水の風景のひとつに

施設内の「umitomo park」があるエリアは、共用部としてどのように活用していくべきか、明確な方向性が定まっていなかった。方針から企画、そして具体的な設計まで、何度も対話を重ねていく中で、ドリームプラザが目指す地域共生を象徴する空間へと昇華を遂げていった。
鹿島:「テナント出店だけではなく施設としてどうあるべきか。そういった会話をする機会も増えていく中で『ドリームプラザが地域に向けてやっていく活動を周知・体験していただける場所にしてはどうですか?』という弊社からのご提案が、umitomo parkの起点でした。並行して構想していたサスティナブルネットワークの構築を進めながら、東海大学やテナントとコラボした取り組みも生まれていって、それらの活動を象徴する場として、企画・提案をしていきました」
大きな方針が決まって議論が進む中で、設計・デザインを担当したのは、スペースの河原と中平だ。

河原 りょうこ / プランニング、
クリエイティブディレクション

中平 詩歩 / デザイン、設計
河原:「具体的なお話も出てきて、子どもたちの遊び場にしようという思惑がありました。ですが、せっかくつくるなら、より幅広い方々の居場所になれるような空間を提案したいなと思ったんです。子どもたちも遊べて、お母さんやお父さん、年配の方にとっても居心地のいい場所になるよう企画していきました」

河原 りょうこ / プランニング、
クリエイティブディレクション
中平:「設計やデザインを考え、ご提案する際には、この場所が完成した先に“お客様の使っているシーンがいかに想像できるか”が大切だと思っています。水槽のサインの一部も、東海大学の関わる学生さんたちが、いつでも差し替えられるようになっていたり。使い方も含めてご提案をさせていただきました」

中平 詩歩 / デザイン、設計
相埜:「ご提案いただいた『umitomo park』の資料をみた時は、実際に使われているイメージが湧いてきて、本当にワクワクしました!オープン後もご提案のイメージのままに、年齢を問わずさまざまな方が落ち着ける場所になっています。お買い物の合間に休んだりするのはもちろん、読書をしている方もいらっしゃいます。カフェではない共有スペースで、いろんな方がくつろいでいるのは、商業施設ではなかなか珍しい光景ではないでしょうか」
中平:「オープン初日は、とても感動しましたね。子どもたちが元気に遊具をくぐったり、飛び跳ねていたり…。大人もリラックスして過ごしてくれていて。こう過ごしてくれたらいいな、と想像していた通りのシーンがそこにありました」
河原:「いらっしゃる方の記憶の片隅に残る、小さなワンシーンも原風景になっていくと感じています。訪れた子どもたちが大人になった時、この施設で過ごした何気ない風景が、清水のイメージとして記憶に残ってくれていたらうれしいです」
相埜:「ええ、その通りですね。地域の人にとっても、大切な時間をここで過ごしていただく上で、清水への誇りが日常の中に溶け込んでいってくれたら良いなと思います」
なんでもない日から、
特別な一日まで
「にぎわい」を絶やさない
地域の憩いの場として、そして、海外観光客への玄関口として。さまざまな理想を実現していく一方で、現実的な問題として、繁忙期と閑散期の売上の差が激しいことが課題だった。今回の新館の開発を通して狙った成果と、その影響を振り返る。
相埜:「新館ができてから、オープン時は前年比売上120%を達成していて、平日の底上げができています。いまでも平均110%という推移が1年ほど続いています。もうひとつ、驚いたことが、過去売上がよくなかったクリスマスの売り上げもぐっと上がったんです。特別な日にここで過ごしてくださる人が増えたんだなと思うと、うれしいですよね」
水谷:「にぎわいを絶やさない、という狙いに対しても、非常に良いスタートを切れていますね」
相埜:「ありがたいことに。地域や防災への取り組みに共感をいただき、グローバルテナントさんが誘致できた、という点での力は非常に大きいですが、若い方々に支持していただける施設になったことを実感しています。たとえ初めは青写真だったとしても、描いた未来図をどのように実現していくか。一筋縄ではいかないプロジェクトを一緒に実現していただきました。今後も、テナントさんや大学と連携したネットワークづくりなど、取り組むべきことはまだまだあるので、手を取り、お力を借りながら進めていけたらと思います」
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水谷 淳商環境研究所
本プロジェクトにおける役割:
プロジェクトマネジメント、設計 -
鹿島 大雅東京本部
本プロジェクトにおける役割:
プランニング、
環境コーディネート、
クリエイティブディレクション -
河原 りょうこ商環境研究所
本プロジェクトにおける役割:
プランニング、
クリエイティブディレクション -
毛利 慶商環境研究所
本プロジェクトにおける役割:
プランニング、設計 -
中平 詩歩商環境研究所
本プロジェクトにおける役割:
デザイン、設計
業務範囲:プロデュース/企画/環境コーディネート/デザイン/設計
制作・施工/リーシング/内装監理
(※肩書きおよび所属は2025年2月時点のものです)
- アワード受賞歴:
- 「第18回キッズデザイン賞」
- https://www.space-tokyo.co.jp/info/20241002/
- 「第58回日本サインデザイン賞」
- https://www.space-tokyo.co.jp/info/20241007/