Story漁連の魚屋 加古川店

クライアント:兵庫県漁業協同組合連合会 様

  • 飲食店・食物飯店
  • 企画・プロデュース
  • デザイン・設計
  • 制作・施工
  • 地域の活性
  • 近畿

地域文化を活性化させる、
魚が大好きになる場所を目指して。

Overview

国内において、魚介類の一人あたり消費量が減少を続けていると叫ばれるようになって久しい。それは、北は日本海、南は瀬戸内海と紀伊水道に面した、全国有数の漁業生産県・兵庫県においても同様である。その根本的な原因とされているのが、魚食文化の衰退。でも、なぜ新鮮でおいしいはずの魚が、消費されなくなっているのか。もっと魚が持つ魅力を情報発信することができれば、状況は大きく好転するのではないか。目指すのは、「魚が大好きになる場所」。JF兵庫漁連とスペースが連携し、いまここに漁港を中心とした地域活性プロジェクトがスタートした。

Index

「魚食離れ」という大きな間違い

兵庫県下の沿海地区を中心に、漁業の研究、漁協の運営相談などの事業活動を行っている兵庫県漁業協同組合連合会(以下、JF兵庫漁連)。バブル崩壊が発端となり「大量貧乏」に直面した漁業者の所得安定を図るため、1992年から加工事業をスタート。その後には、小売事業にも乗り出すことになった。

当初は移動車販売という形態で事業を行っていたJF兵庫漁連だが、2016年、販売先のひとつだった「農協市場館パスカルさんだ」で意外な要望を耳にしたという。

突々(とっとつ):「お客さんから言われた『お魚を捌いてほしい』という声です。『魚食離れ』が叫ばれるこの昨今ですが、実際それは間違いで、『魚を捌くところから料理を作りたくはないけど、魚自体は食べたい』というのがお客さんの本音なのだと感じました」

突々(とっとつ) 淳 様 /兵庫県漁業協同組合連合会 専務理事

そんな最中、時を合わせて館内から店舗出店の強い要望が持ち上がった。

突々:「新事業への展開に戸惑いもありました。しかし、大量貧乏になる魚にしっかり値段をつけられる仕組みをつくるには、製品という出口をつくらなければいけない。そんな想いから、今後のチェーン展開も視野に入れて店舗出店を決定しました」

その後、出店した「漁連の魚屋 三田店」は、消費者ニーズをつかみながら兵庫県内で水揚げされた新鮮な鮮魚や活魚に加え、寿司や惣菜なども販売し、順調に売り上げを伸ばした。その強い手応えから、2021年にリニューアルする「アリオ加古川」に第二号店「漁連の魚屋 加古川店」を出店することになったという。

「新鮮でおいしい」を
いかに伝えるか

藤本 哲也 様 /兵庫県漁業協同組合連合会 漁連の魚屋 加古川店 店長

ところが、いざ店舗づくりを始めてみると、三田店で得た運営に関するノウハウはあるものの、「それを新店舗にどのように落とし込み、表現すべきなのか」の答えが見つからない状態になっていた。

藤本:「そんなとき、アリオ加古川を所有している多木化学さんからスペースさんをご紹介していただくことになりました。その後、田中さんに漁連の魚屋で取り扱っている魚を食べていただきながら店づくりについてお話をさせていただきました。すると、魚の味にとても感動していただいて」

藤本 哲也 様 /兵庫県漁業協同組合連合会 漁連の魚屋 加古川店 店長

田中:「その日に漁港から水揚げされたというお魚をいただいたのですが、その味が信じられないほどおいしくて。思わず、会社や仕事のことが頭からポンと飛んでしまうほどでした」

田中 三弘 /クリエイティブパートナー

「なぜこんなおいしい魚なのに、全国に広まっていないのだろう」「このおいしさを全国のお客さんに伝える方法が何かあるのではないか」と次から次へと想像が膨らんだという田中。おいしい魚も、魚に関する知識も、すべて漁港にある。今足りないのは、表現の仕方だけだと実感した。

田中:「そこで、『私がお手伝いしたいのは、レイアウトやデザインのことではありません。このお魚のおいしさを日本全国に伝えること。そのために、表現のプロとしてやれることをすべてやらせてください』と自らお願いさせていただきました」

田中が最初に取り掛かったのは、三田店が抱えている課題の棚卸し。その中で焦点を当てたのは、「三田店の魚がなぜ好調に売れているのか」ということだった。

田中:「改めてJF兵庫漁連さんが持つ強みの整理をしたところ、『魚への強い想いを持ったプロたちが、正直においしいと思うものを適切な値段で販売している』というポイントに行きつくことができました。そこで、その強みを活かしてさらに漁連の魚屋を中心とした理想のまちの絵をデザイン。店舗がお客様との結節点になり、そこからいろんな場所に向かって魚に関する情報を発信していくイメージをまとめていきました。テーマは、『魚が大好きになる場所』です」

藤本:「その内容を拝見したとき、『自分たちが出せなかった世界観を上手に表現してくれた』という印象を強く持ちました。すべてのスタートは、まさにあの瞬間だったと思います」

「場所」をつくる
パートナーとして

店舗デザインでこだわったのは、ただ魚を買うだけでなく、楽しみながら学びや体験ができるという世界観。そのイメージに向けて、田中と河原はさまざまな仕掛けを考えた。

田中:「漁連の魚屋で一番のポイントは、やはり魚のプロが目の前で魚を捌くこと。まずはその瞬間をお客さんに見てほしいと考えました。そこで、魚を捌く様子を見られるガラス張りの厨房を設計し、漁連の魚屋の魅力がより前に出るような空間づくりを進めていきました」

河原 亮子 /ブランディングデザイナー

また、お客さんに魚のことを知ったり、触れたりしてほしいという想いから、店内を包み込むように巨大な魚群の壁面アートも配置した。

河原:「このアート作品は、カジュアルアートで定評があるデザイン会社のSwimmy design labさんのもの。メジャーなものからマイナーなものまで、県内で漁獲される68種類の魚を実物の比率感に合わせて表現していただきました。その背景となる海の色のイメージにも、メッセージを込めました。というのも、お打ち合わせの際、突々専務から『本当に豊かな海の色というのは、もともとの青色に栄養が豊富な植物性プランクトンの緑色が混ざっているものですよ』と教えていただいて。その世界観をどうにか壁面アートで伝えることはできないかと思い、背景に青緑色のグラデーションを使用することにしました」

河原 亮子 /ブランディングデザイナー

その他にも、漁の様子や魚の調理過程が流れるムービーや、魚のプロであるスタッフたちの魅力を引き立てるためのユニフォームなどを制作。「魚が大好きになる場所」として、店内を歩くだけで魚を魅力的に感じ、親しみが得られるような仕組みをつくりあげた。

このような店舗づくりを行う一方で、漁港を中心とした地域の活性化を目指していくために、JF兵庫漁連とスペースで「漁縁パートナー」として連携することにもなった。

田中:「『魚が大好きになる場所』というイメージをJF兵庫魚連と一緒に地域に広げていこうと考えたとき、お客様とその取引先という関係性ではもの足りないと感じました。そこで、一丸となってプロジェクトを推進していけるような仕組みとして考えたのが、『漁業』を『縁』で結ぶパートナーシップです。この取り組みについては、店内装飾に淡路島の漁師たちの伝統的な衣服『どんざ』のタイルを使用させていただいた、南あわじ市創業のDanto Tileさんにもご賛同いただきました」

オープン当時の店内の様子

オープン当時の店内の様子

「真剣に、とことん楽しめばいい」

また、二号店オープン目前となった10月10日(魚=トトの日)に、スペースから地域に向けて地元の魚の魅力を発信するイベントの開催を提案した。県内で話題のコッペパン専門キッチンカー「母とむすめ」とのコラボ企画として、兵庫県沿岸で獲れた魚やタコを使った限定メニューを販売する「母とむすめと漁連のおっちゃん」の実施に至った。

藤本:「『オープンに向けて事前告知を行おう』という話は出ていたものの、当時は準備に追われていて、まったくノーアイディアの状態でした。そんなとき、スペースさんの広報担当の方から『母とむすめさんと一緒にコラボイベントをやってみませんか』と言っていただいて。ちょうど母とむすめさんはInstagramが注目を浴びはじめたタイミングでお忙しい最中だったのですが、偶然にもトトの日は空いているということで、実施の運びになりました」

渡部:「できあがった試作品をスペースさんたちと一緒に食べながら、必死になってメニューの名前を考えました。そのときも『ここまで来たら自分たちがとことん楽しんで、面白い商品名にしよう』ということで、真剣にふざけることを徹底しました。その甲斐もあって、当日は約150人が訪れ30分程で売り切れるほどの大盛況でした」

田中:「このイベントをきっかけにその後も取引が続いているんですよね。地域の方々が今以上に魚を身近に感じてくれたらとても嬉しいです」

渡部 恭広 様 /兵庫県漁業協同組合連合会 流通加工部 部長

また、オープンに先駆けたイベント第二弾として、Instagramにて兵庫県沿岸で獲れる魚たちの人気投票も実施。その好評を受け、現在も漁業や魚に関する豆知識、魚料理のレシピなどの多角的な情報発信を行っている。

田中:「お魚の魅力を日本全国に伝えたいという想いで、くすっと笑えるチャームポイントをアピールした総選挙を提案しました」

渡部:「Instagramについては、最初私たちとしては少しとっつきにくい印象がありました。しかし、情報発信が重要なのは十分理解していたので、スペースさんの力を借りながら少しずつ行っていくようになりました。現在では、ようやく専属の担当者を置くようになり、Instagramならではの企画を考えるようになっています」

オープン告知イベント「母とむすめと漁連のおっちゃん」の様子

オープン告知イベント「母とむすめと漁連のおっちゃん」の様子

何かが始まる瞬間を、共体験する

オープン後、順調に客足を伸ばし続ける漁連の魚屋の新店舗。新たな挑戦に向かう今、店舗運営の課題に日々直面しながらも、それでもお客さんの反応に大きな手応えを感じはじめている最中だという。

藤本:「特に年末年始や節分などの季節イベントの販売で、非常に大きな反応があるのに驚いています。今後もさまざまなチャレンジを行って、イベントが持つ爆発力をどんどん強めていきたい。そのためにも、これまで三田店が築いてきたお客さんとの信頼関係を大切にしていきたいと思っています」

渡部:「漁連の魚屋の場合、営利重視に偏るのではなく、楽しみながら魚を売ることができる。これは、私たちの強みだと感じています。今後、JF兵庫漁連としては、多店舗化に向けて新たなスタートを切っていかなければいけません。そのときも、スペースさんと共に創りあげたこのノウハウを使いながら、次のステップに挑戦していきたい。同時に、全国の水産業者の皆さんにもここで私たちが得たノウハウを使っていただき、一緒に水産業を盛り上げていければと思っています」

「地域活性の取り組みとしてどんな協力ができるのか」というのがテーマとなった今回のプロジェクト。スペースでは、この問いへのひとつの答えを発見したと実感している。

河原:「私たちが今回実現したかったのは、JF兵庫漁連さんが持つ地元の魚への想いを、しっかりと地域の人たちに伝えていくこと。その結果、新たな地域のつながりを構築できたと実感しています。今後も、まちづくりという面でさらに広がりを生み出していけるように JF兵庫漁連さんと共に歩んでいけたらと思います」

田中:「今回のプロジェクトを通じて改めて実感したのは、お客様が持っている課題を共有していただきながら、一緒に解決策を考えていくことの重要性でした。今後スペースは、空間創造を中心としたブランディングをより深めていくために、お客様のパートナーとして共に課題解決に向けて歩み続けるチームであり続けたいと思っています」

Customers’ Voice

このお店で買い物をするようになって、子どもが急に魚をたくさん食べられるように。料理の仕方も魚のプロの方に相談できるので、とてもうれしいです。

お魚を実際に捌いているところが見られるのが本当に楽しいです。他にも、魚のイラストやムービーなどたくさん見所があるので、いつ来ても飽きません。

スタッフの方が着ている紺色のTシャツが印象的でした。話を聞くと「購入できるがサイズを切らしている」とのことだったので、すぐに予約しました。

その日に獲れたお魚が漁港から直接お店にやってきているとお店の方から伺いました。実際いつも新鮮で、味も他の店で買っているものと全然違います。

店舗の内装やスタッフのユニフォームが、とにかくオシャレ。彼女と歩いていてたまたま店を見つけて入ったんですが、また遊びに来たいと思いました。

Movie

Project Member

  • 田中 三弘商環境研究所

    本プロジェクトにおける役割:
    クリエイティブパートナー

  • 河原 りょうこ商環境研究所

    本プロジェクトにおける役割:
    ブランディングデザイナー

業務範囲:
ブランディング、プロモーション・イベントプロデュース、店舗設計・施工

(※肩書きおよび所属は2022年4月時点のものです)

プロジェクトのスコープ:

2021.9.6漁縁パートナーとして連携

2021.9.7JF兵庫漁連公式Instagram「sakanaya_hyogo」開設

2021.10.10トトの日にあわせたイベント「母とむすめと漁連のおっちゃん」開催

2021.10.10-10.17Instagramイベント「ひょうごのお魚総選挙」開催

2021.10.28漁連の魚屋 加古川店オープン