Storyイーアス沖縄豊崎

クライアント:大和ハウス工業株式会社 様

  • 複合商業施設
  • デザイン・設計
  • 制作・施工
  • 内装監理
  • リーシング
  • にぎわいの創出
  • コラボレーション
  • 観光・インバウンド
  • アワード
  • 九州・沖縄

豊崎の魅力を、最大限に
引き出す場所をつくる。

Overview

2020年6月19日。沖縄に新たな商業施設が誕生した。その名も、イーアス沖縄豊崎だ。ビーチを臨み、地元のアーティストの参画によって、沖縄らしさをふんだんに表現。一方で、人気のナショナルチェーン店や屋台のようにあちこちに配置されたフードホールなどのアイデアは、ロサンゼルスの海外デザイン事務所のグローバルな視点も取り入れ、地元の人が気軽に立ち寄れることも意識した空間となっている。イーアス沖縄豊崎が目指すのは、単に人がたくさん訪れる場所ではない。ここで考えられているのは、豊崎という土地そのもののブランディング。周辺に位置するアウトレットモールや水族館、ホテル、そして沖縄の海。様々な施設とともに、街遊びをして回遊してもらうことを意識し、この海辺の地域(ビーチディストリクト)全体を楽しんでもらうことを狙いとしているのだ。

Index

時代は、トキ消費・エモ消費へ
どんな時間を
過ごしてもらうかが、カギ

水谷 淳 / プロジェクトマネジメント・
設計

梶浦 宏哉 / 設計・デザイン

元々は観光地ではなかった豊崎。観光客の方にも、地元の方にも、楽しんでもらうことを考え、豊崎という土地そのもののブランディングを目的とした。カギとなったのは、豊崎のポテンシャルを最大限活かした戦略。クライアントは大和ハウス工業株式会社様、施設運営は大和情報サービス株式会社。スペースからは、水谷・梶浦が担当した。

水谷:「イーアス沖縄豊崎に関しては、大きなコンセプトとして『コースタル(海辺の)リゾート』を意識していました。背景には、豊崎という立地の課題と強み、両方があります。元々計画段階では更地で、豊崎というエリアも観光地として注目度の高い土地ではなかったことが課題でした。沖縄の有名観光スポットは、比較的空港よりも北のエリアが多い。豊崎は空港からほど近い立地にも関わらず、観光客の方が訪れることは少ない立地でした」

水谷 淳 / プロジェクトマネジメント・設計

大城:「そうですね。私は生まれも沖縄で、この場所をよく知っていますが、このあたりは元々地元の人の目から見ても遊ぶ場所が少ないんです。服を買っておめかししても、それを着ていくような特別な場所がない。ちょっと特別な気持ちで気軽に行ける場所がほしい、という想いは、地元の人間としてもありましたね」

大城 英隆 様 / 大和情報サービス株式会社
(イーアス沖縄豊崎 支配人)

水谷:「建設の話が持ち上がった当初、豊崎への観光客は少なかった一方で、イーアス沖縄豊崎の立地には強みもありました。それは、美らSUNビーチの目の前に施設が建設予定だった点です。美らSUNビーチがあり、近くには他のショッピングモールもある地域。そして、水族館も隣接が決まっていました。ホテルなども建設予定で、これから地域全体として多くの人を呼び込めるだろうと期待できる場所だったと思います」

大城 英隆 様 / 大和情報サービス株式会社
(イーアス沖縄豊崎 支配人)

大城:「そうですね。私は運営の計画の段階からプロジェクトメンバーとして携わっていますが、イーアス沖縄豊崎に関しては、『コースタル(海辺の)リゾート』のコンセプトとともに、『トキ消費』『エモ消費』もキーワードでした。そこでしか過ごせない時間や、そこだからこそ感じられる気分を表現しようとしました。イーアス沖縄豊崎で、というのはもちろんですが、周辺のホテルや施設を回遊しながら楽しんでもらえることも重要です。見て楽しむこと、食事、お買い物。それから、バーベキューなんかもできるように。楽しさを重視し、フードホールなども敢えて雑多な屋台のような店舗配置になっていることもそのひとつですね」

梶浦:「とくにビーチの目の前という立地は、最大限活かしたくて。ビーチに面したところは、人が歩いて風を感じ、サンセットを眺められる場所にしました。施設の中ではありつつ、外の海を感じられる構造を意識していました。ビーチでも音楽フェスなど行われており、イベント連携も魅力の一つです」

梶浦 宏哉 / 設計・デザイン

地元アーティストの手で
沖縄とのつながりを描き出す

イーアス沖縄豊崎の外観や施設内のサインには、沖縄で活動するアーティストの作品が活かされている。そこにはどんな考えと、想いがあったのか。アートで彩るアイデアは、まちづくりに強みを持つ株式会社ナノ・アソシエイツ 浅雄一氏に協力を仰いだ。

水谷:「当初から施設外観や、施設内のサインなどには、アーティストの方の力を借りたいと考えていました。そこで、豊崎エリアのまちづくり協議会がきっかけで知り合った、ナノ・アソシエイツさんにご相談をしたという経緯があります」

浅 雄一 氏 / 株式会社ナノ・アソシエイツ
代表取締役

浅:「沖縄らしさが求められる一方で、ナショナルチェーンへの需要もあるのが難しいところでしたね」

浅 雄一 氏 / 株式会社ナノ・アソシエイツ代表取締役

梶浦:「ええ。ナショナルチェーンが並んでいるだけでは、内地と同じ。沖縄らしさが表現できません」

浅:「アーティストの作品を活かすことで、そこはクリアしていけたかなと考えています。内地と似たような商業施設として孤立させることなく、地元のアーティストを巻き込むことで、地元の人と接点が生まれるというか。沖縄の人は沖縄が好きです。だから、『よそ者が勝手につくったものではない』と感じてもらうことが大切でした」

梶浦:「施設の企画段階からアーティストの方に参画して頂いた事は、施策として成功だったと思います。目に見えるものだけでない、想いまで込められた作品で、イーアス沖縄豊崎と地元の方とのつながりにより『地元への愛着』とも呼べる関係性が生まれました」

水谷:「地元の人の感性を取り入れたからこそ、地元の人にも愛される場所になりましたよね」

浅:「沖縄はアートが盛んである一方、発信の場は多くありません。ですので今後、イーアスがその発信の場になっていってもいいのかなと思いますね。ふらっと行ったら楽しいことがある、あの人と話せるかも、そんな期待の持てる場所になったらいいかなと考えています」

地元企業をアクセントに
ニーズのなかに、
「らしさ」を散りばめて

土地の特性を活かした施設構造にし、想いを表現するアートも考えた。施設の大枠ができてくれば、次は中に入るテナントの誘致である。テナントを計画していく上で重要なのが、地元の方と観光客、どちらにも楽しんでもらえる構成だ。全国的に有名なナショナルチェーン店も、沖縄ならではのお店も、バランスよく。スペースのグループ会社であるエム・エス・シーの高橋と同社から業務委託を受けたスペースの髙田が、それぞれにクライアントと地元企業と向き合い想いを汲み取りながら、計画は進んでいった。

髙田 準之介 / テナントリーシング業務

高橋 新 / テナントリーシング

髙田:「今回イーアス沖縄豊崎は、ターゲットとなる客層が、地元の方:観光客の方=7:3を意識していました。それを踏まえた上で、どのようなテナントをどう配置するかは大きなカギだったと思います」

髙田 準之介 / テナントリーシング業務

高橋:「地元の方を意識すると、沖縄初出店のチェーン店や沖縄県内でも知名度の高いお店は誘致したいところ。一方で観光客の方を意識するなら、周辺の観光施設やショッピングモールとの差別化を考える必要がありました」

高橋 新 / テナントリーシング

髙田:「両方の客層を意識した際、積極的に誘致したかったのが、地元沖縄の企業です。沖縄県内で知名度の高いチェーン店や、路面店だけでやってきた沖縄らしさのあるお店に出店していただきたかった。それには、地元のお店に出店してもらうことで、沖縄らしさを楽しみたい観光客の方へも、親近感を持って気軽に訪れたい地元の方へも、双方を誘致できることが狙いとしてありました」

高橋:「テナントの配置も工夫をしています。たとえばナショナルチェーン店ばかりが並ぶ施設ではつまらない。だから、フードホールでは沖縄ならではのお店が並んでいたり、ナショナルチェーン店の並びに、ポンとかりゆしウェアのお店を入れてみたり。そういうところで差別化を意識しました。あるいは、水族館と隣接するエリアでは、観光客の方向けにお土産物のショップエリアを設け、スーパーマーケットと隣接するエリアでは、地元の方を意識してフードホールを。どこにどんなお店を配置するかは重要だったと思います」

髙田:「地元企業では、これまでショッピングモールへの出店なんて考えたこともないようなところも多い。そこへ突然出店依頼をすれば、不安に思うのは当然です。賃料などもこれまでの路面店などとはかなり変わってくるでしょうから、運営に関する質問も多かったですね。どんな施設をつくろうとしていて、なぜ出店をお願いするのか、丁寧に説明するとともに、店舗側の想いも一つひとつ大切に伺いました。あくまで地元店のみなさんに寄り添ったことで、たとえばクライアント側との賃料交渉なども地元企業に不利益がない形で行うことができたと考えています」

  • メゾネット型フードホール「STREET FOOD」空間プロデュース:スペース 
    コミュニケーションデザイン:Selbert Perkings Design.

沖縄の観光地として
そして地域の交流の場所として

オープンから予想以上の人気を見せているイーアス沖縄豊崎。しかし、人がたくさん入ることだけが、この施設のゴールではない。本当に望むのは、豊崎の地自体がもっと発展していくこと。この場所が、人々の交流の場となっていくことだ。

大城:「プロジェクトを通じ、おふたりはどんなことが印象深かったですか?」

水谷:「足掛け3年半、悩みながら少しずつ前に進んできたプロジェクトだったなと思います。参画するパートナー選びや、予算、スケジュールの組み立て等、抜けているピースを埋めていくような仕事は、いい経験になりました。将来ここを訪れる人を想って頑張ろうというのもあったし、関わってくれたメンバーの仕事や想いを無駄にしたくないという気持ちも強かったです」

梶浦:「一つひとつの判断に際して、たとえばちょっとしたデザインでも、『自分が諦めたら、イーアス沖縄豊崎を訪れる人の楽しみが減ってしまう。それでいいのか?』と思いましたね」

大城:「折れてはいけないところ、譲ってはいけないところを意識しているから、芯を持って意見を言ったり案を通したりできる。そんな想いのこもったイーアス沖縄豊崎だからこそ、多くの人に訪れてもらえる場所となったのだと思います。2020年6月19日にオープンを迎え、初月は予測の118%の方が訪れるという盛況ぶりをみせてくれています。しかし、オープンして終わりでは、もちろんない。大事なのはここからなんですよね。空港にも近いし、沖縄に降り立って最初に、あるいは最後に、立ち寄るような場所になってほしいです」

梶浦:「そうですね。用事がなくてもふらっと立ち寄れるような場所。楽しくご飯を食べたり、海を眺めたり。ビーチに遊びに来た人が、フラッとビーチサンダルのまま入って来てくれてもいい。そういう場所として地元に根付いていってほしいです。この地域そのもののブランディングにつながっていけばいいなと」

大城:「豊崎からほど近い瀬長島一体は、組踊(手水の縁)の舞台であるなど、文化的に注目されるべき場所でもありますから、もっと風光明媚な場所として認知されていってほしいです。沖縄らしさや文化を表現していく場所として、ただイベントをやるだけでなくて、旧暦に則った歌だったりお菓子を取り扱うとかもいい。地域の歴史にも寄り添いながら、豊崎の中心施設として、成長していけたらと思います」

Project Member

  • 水谷 淳商環境研究所

    本プロジェクトにおける役割:
    プロジェクトマネジメント・設計

  • 梶浦 宏哉商環境研究所

    本プロジェクトにおける役割:
    設計・デザイン

  • 浅 雄一 氏株式会社ナノ・アソシエイツ
    代表取締役

    本プロジェクトにおける役割:
    アーティストコーディネート

  • 高橋 新株式会社エム・エス・シー
    執行役員

    本プロジェクトにおける役割:
    テナントリーシング

  • 髙田 準之介開発本部

    本プロジェクトにおける役割:
    株式会社エム・エス・シーからの業務委託
    (テナントリーシング業務)

業務範囲:設計/デザイン/施工/アート制作/テナントリーシング/内装監理
コミュニケーションデザイン/環境グラフィックデザイン(Selbert Perkins Design.)

(※肩書きおよび所属は2020年12月時点のものです)