Story神戸新聞社 製作センター見学ルート

クライアント:株式会社神戸新聞社 様

  • サービス空間・パブリック空間
  • 企画・プロデュース
  • デザイン・設計
  • 制作・施工
  • 体験価値のデザイン
  • アワード
  • 近畿

地域と新聞のつながりを
文字から体験する見学ツアー。

Overview

2020年度のグッドデザイン賞、日本サインデザイン賞 地区賞、ディスプレイ産業賞 奨励賞を受賞した、神戸新聞社の工場見学ルート。高速輪転機の印刷風景を間近で見られることや、免震構造体の地下ピットにある阪神・淡路大震災当時の新聞記事を投影したインスタレーションなど、他にはない体験ができる工場見学として話題となった。しかしそこで得られるのは、楽しい体験だけではない。活字離れの進む子供たちが、新聞について知り、魅力に触れられるように。地域の人々が、過去の災害に関して改めて考えられるように。様々な意義と想いを形にしたからこそ、多くの人に評価されるものとなったのだ。

Index

答えが見えない中での、
多くの挑戦

地道 克礼 様 / 株式会社神戸新聞社

斉藤 憶厚 様 / 株式会社神戸新聞社

工場見学ルートがオープンとなったのは、2019年5月。当初は製作センター内に見学者を入れることは想定していたものの、見学ルート設置は、センター建設が進む中で具体化した話だったという。振り返るのは神戸新聞社の担当、神戸新聞社・地道氏と斉藤氏。スペースでは、馬越と大下が主に担当した。

地道:「最初にスペースさんにお声がけしたときは、どんなことをしようか、まだ形のない状態でした。完成図がほとんど見えていない中、そして時間のない中で、手探りでのスタートでした」

地道 克礼 様 / 株式会社神戸新聞社

大下:「このプロジェクトにおける大きな課題は、非常にコンパクトなつくりの工場で、見学ルートの企画が難しかったことですね」

大下 晃 / 企画・施工

斉藤:「普通イメージされる『工場見学』にあるような、見学者専用の通路やスペースが余裕を持ってつくれない工場でした。かといって、単なるパネル展示だと、主な対象である子供たちは飽きてしまう。どうすればいい、と頭を悩ませていました」

斉藤 憶厚 様 / 株式会社神戸新聞社

大下 晃 / 企画・施工

馬越 陽子 / 企画・デザイン、設計

構造上の制約のある中でも、子供たちを飽きさせない魅力的な見学ルートを。企画を行うには、多くのアイデアが必要だった。

大下:「ご提案したのは、全体を通じて『文字』をコンセプトにすること。そして、自分から参加したり、空間全体で感じたりするよう、『体験』の要素が必要だと考えました。床や天井まですべてを余すことなく使い切った展示や、錯視を利用した壁の仕掛け。子供たち自身が記者になったように書き込みながら学べるクイズ。機械を間近で見られる通路などがあります」

馬越:「そして見学ルートの最後にある、インスタレーションですね。製作センターの地下ピットには、建物の免震装置があり、それを見ることができるようになっていました。そこでは、神戸新聞が発行した阪神・淡路大震災に関する過去の新聞記事を、プロジェクターで様々に映し出すことを企画。これまでどこもやっていない、アートのような表現を行いました」

馬越 陽子 / 企画・デザイン、設計

子どもが生き生きと
活字に触れられる仕掛けを

子供が飽きないような見学ルートにしたい。しかし、ただ子供の興味を引くような派手で面白いことを狙うだけでは意味がないことも、プロジェクトチームは充分にわかっていた。だからこそ、文字の体験を軸に、多様な視点から数多くの企画・アイデア出しが必要だったのだ。

馬越:「活字離れや、新聞を読まない人の増加。子どもに限らずですが、デジタルの文字や動画などの方が、身近になってきました。でも、新聞独特の香りやあの手触りは、デジタルにはない質感です。そういったにおいや触感も含め、新聞というものを体験してもらえるようにと考えていました」

大下:「だから、姿勢を変えてみることで見えてくる錯視があるとか、自らめくったり巻き取ったりするクイズがあるとか。ちょっとした廊下も飽きない仕掛け、自分で参加できる仕掛けを意識しました。見学者向けの通路がないコンパクトさは逆に活かして、機械を間近でリアルに感じてもらえるように。立入禁止が多い場所でも、表示をひとクセあるような仕様のもので工夫をしました」

斉藤:「インスタレーションは、当時の神戸新聞がどんなことを意識していたかを感じ取っていただけるものとなっています。安全面は考慮しつつ、機械を間近で見られるようになったのはよかったですね。子供たちがワクワクしているのがわかります。見るだけで終わらず、感じて学んで、そして帰ったら家族に話したくなるような企画ばかりですよね」

馬越:「地下ピットのインスタレーションでは、その空間の一部になってもらうことを狙いとしました。子供たちは、1995年の震災を体験していない。しかし、災害というもの、その時の新聞というものを知ってほしかったんです」

斉藤:「震災報道の紙面を大写しにする一方で、見る側に重くなりすぎないようにと意識するのは、大切なことだったと思います」

大下:「一つひとつがコンセプトに基づいた、個性的なコーナーです。社内で多くのアイデア出しをし、予算や納期に合わせて、『実現するにはどうすれば』と考え続けました」

地域にとって、新聞とは何か。
改めて意義を伝える展示に

只宗 耕司 / プロジェクトマネジメント・ディレクション・企画

多くの仕掛けがあり、新聞に親しみを持てる空間。実際に見学した人は、子供だけではなく大人も、多分にその魅力に触れていた。一方でプロジェクトチームには、直接的ではないながらも、見学全体を通じて表現したい想いもあったようだ。神戸新聞社・冨居氏、梶岡氏と、スペース・只宗が振り返る。

只宗:「様々に工夫を凝らしたプロジェクトではありましたが、土台にはもっと大きな意義や考えが、私たちのなかでは共有されていたと思います。それが、神戸新聞社様が地域の新聞社としてどうあるべきか、ということです」

只宗 耕司 / プロジェクトマネジメント・ディレクション・企画

冨居 雅人 様 / 株式会社神戸新聞社

梶岡 修一 様 / 株式会社神戸新聞社

冨居:「突き詰めると、『新聞社とは何か?』という問いになります。新聞社というのは、記事を書いて終わりではありません。新聞は、『確かな情報を届けるもの』として信頼をおいていただいている。だから新聞社は、襟を正して、高いクオリティのものを、地域の人へ届ける存在でなければならないのだと思います」

冨居 雅人 様 / 株式会社神戸新聞社

梶岡:「2015年、神戸新聞社は創刊120周年を前に、地域パートナー宣言『もっといっしょに』という新しい方針を掲げました。これは、地域の人と一緒に悩んだり、解決したり、一緒に暮らしていこうという想いのことばです」

梶岡 修一 様 / 株式会社神戸新聞社

只宗:「そういった神戸新聞社さんの想いがもっとも表現されているのが、地下ピットのインスタレーションだと思います。記事を書いて終わりではなく、当時のことを次の世代に伝えていく存在になる。兵庫の地にあるからこそ、阪神・淡路大震災のことを発信しつづけ、忘れないように。この活動も含めて、地域の人とつながり、協力していくという姿勢を伝えていけたらいいんじゃないでしょうか」

冨居:「震災直後は、重苦しい見出しが多かったんです。死者数だったり、被害状況を主に伝えていた。そこからだんだん、地元紙としては地域の人を勇気づけなければという気持ちで、希望を持てる言葉遣いをする紙面づくりに変わっていきました。そういった考えが表れた紙面を、あらためて見ていただけるというのはいいですね」

只宗:「そうですね。インスタレーション企画の方向としても、震災の悲惨さを伝えるだけではなく、あくまで次の世代へつなげられる、伝えていけるものをと考えていたので、そこも神戸新聞の当時の想いと、実は近かったのだと思います」

梶岡:「インスタレーションの空間を通るのは、ほんのわずかな時間です。しかしその中でも、震災を知ってもらえたら、私たちの想いを伝えていけたらという考えが実現できた空間でしたね」

冨居:「私たちは、『震災後』という言葉を使いません。『災間』と表現しています。災害は終わったわけではなく、次の災害が日々迫っている。だから、過去の災害を忘れてはならない。もちろん、暗く重い気持ちになってしまうかもしれませんが、でもきちんと伝え続けなければならない。それが私たち新聞社にとって、使命のひとつなのだと考えています」

只宗:「見学ツアーは多くの方に評判がよく、グッドデザイン賞をはじめ、さまざまな賞を受賞しました。そういったことも嬉しいですが、単に楽しい見学ツアーを企画するだけではなく、新聞社と地域の人のつながりを形にできたというところで、私たちスペースとしてもとても大きな意義を感じられるプロジェクトであったと思います。どんな想いを伝えていきたいのか、そしてそれをどうやって形にするかと考えるところから、一緒にプロジェクトをやらせていただけたのがよかったですね。依頼人の想いを、様々なアイデアや手法で形にすることがプロデュースなのかなと思います」

Project Member

  • 只宗 耕司大阪本部

    本プロジェクトにおける役割:
    プロジェクトマネジメント・
    ディレクション・企画

  • 馬越 陽子大阪本部

    本プロジェクトにおける役割:
    企画・デザイン、設計

  • 大下 晃大阪本部

    本プロジェクトにおける役割:
    企画・施工

業務範囲:企画/デザイン/設計/施工

(※肩書きおよび所属は2020年11月時点のものです)