Storysequence MIYASHITA PARK

クライアント:三井不動産株式会社 様

  • 飲食店・食物飯店
  • サービス空間・パブリック空間
  • 制作・施工
  • 体験価値のデザイン
  • 観光・インバウンド
  • 関東

多様性を受け入れる、
渋谷らしく、新しいホテルを。

Overview

東京・渋谷の公園・商業施設・ホテルが一体となったミクストユース施設として生まれ変わったMIYASHITA PARK。その北端に位置するホテル「sequence MIYASHITA PARK」には3つの飲食店が入ることになった。4階には渋谷区立宮下公園とホテルをつなぐカフェ「VALLEY PARK STAND」。5階は東洋と西洋が融合した食文化を届けるレストラン「Dōngxī Restaurant & Sakaba」。そして18階には、非日常的な体験のできるエンターテインメントレストラン&バー「SOAK」。統一感を持たせつつも、フロアごとに異なるデザイナーを起用し、理想の空間づくりを。クライアントである三井不動産株式会社様、カフェおよびレストランの企画運営を行う株式会社ウェルカム様、スペースの現場担当社員による、それぞれの視点から本プロジェクトを振り返ってもらう。

Index

Smart」
「Open」「Culture」

渋谷らしく、個性のあふれる空間

時代に合わせてアップデートした、渋谷の新たなホテル。その実現のため、最初に生まれたのは、あるひとつのコンセプトと3つのキーワードだったと、三井不動産の担当者である河野氏・江連氏は語る。

河野:「最初に考えたのは、『Smart』『Open』『Culture』というキーワードです。渋谷らしさを活かしながら、洗練され、かつ開かれた空間を目指しました。どんな方でも、望んだ方を誰でも受け入れる。それぞれのキーワードを表現するため、どのフロアでも多様性が感じられるよう意識していました」

これまで三井不動産が手掛けてきたものとは異なる、新たなホテル。依頼を受けたスペースの徳武は、最初にオリエンテーションを受けたとき、スイッチが入るように強い興味を惹かれたという。

徳武 輝彦 / 4階、5階、18階の施工マネジメント・施工(4階)

西山 菜摘 / 4階、5階、18階の搬入管理

徳武:「お話を聞いたときから、成功させたい、という気持ちが強くありました。スペースにとって新たなチャレンジとなるプロジェクトだと。難しい点も多そうだと感じましたが、前向きに『やれる!』と思いました。難しくともまず前向きに考えるという点は、他の物件のときも変わらず意識している姿勢ですね」

徳武 輝彦 / 4階、5階、18階の施工マネジメント・施工(4階)

江連 沙織 様 / 三井不動産株式会社

江連:「4、5、18階の内装を、一括でスペースさんにお願いしたのはいい選択だったと思います。調整が数多く発生するなかでも、柔軟で、フットワークの軽い進行が実現できました」

江連 沙織 様 / 三井不動産株式会社

一方で、パートナー企業や関係者が数多くなってくることの調整には工夫が必要でもあった。搬入を担当した西山は振り返る。

西山:「今回は数多くいる関係者の調整がカギでした。各フロアの工事スケジュールを加味して、各関係者との折衝や車両の対応など、全体を統括することによりスムーズに進行させることができたと思います」

西山 菜摘 / 4階、5階、18階の搬入管理

公園のような、ホテル。
ホテルのような、公園

4階カフェはホテルのエントランスであり、渋谷区立宮下公園と隣接する場所。そこに入ったのが、VALLEY PARK STAND。多くの人が行き交い、くつろげるカフェだ。
4階カフェと5階レストランの企画運営としてプロジェクトへ参加したのが、数多くの飲食店ブランドを経営する株式会社ウェルカムだ。担当となったのは、事業開発部の小川氏だった。

小川 弘純 氏 / 株式会社ウェルカム
事業開発部

小川:「実は、ウェルカムはホテルの企画は初めて。だからこそ出せるアイデアや視点があればと考えていました。4階でキーとなったのは、カフェと公園の両方を意識した空間づくりです」

小川 弘純 氏 / 株式会社ウェルカム
事業開発部

徳武:「公園とカフェとのつながりが重要であることは、設計案へ表れていたと思います。開かれた大きなガラスのエントランスが特徴的ですよね。公園を歩いていたらいつの間にかカフェの中へ入っているようなイメージを、私も設計図を見て思い描くことができました」

河野:「それから、店内で自然を感じさせる内装も意識しました。土を感じる壁だったり、渋谷区立宮下公園に生えていた欅を利用したテーブルだったり。高さのある什器を置かなかったこともポイントです」

徳武:「はじめは土をイメージした茶色い床に、床と壁をコンクリート仕上げで考えられていましたが、コストが嵩んでしまった。このとき、どうにか想定の予算内で、求めている風合いを出せないかと数多くのサンプルをつくりました」

江連:「デザイナーからもアイデアをもらいながら、最終的には床と壁の素材を逆転させる案にたどり着きました。雰囲気は求めていたものを保ったまま、床も壁も素材を変えているので、コストは抑えられて。妥協するのではなく、やり方を変えて理想を追求する姿勢を貫きましたね。アイデアをそれぞれの視点で出し合いながら、仕上げ材サンプルを用意してもらいたくさん検討しました。アイデアを出せば、翌週には実現できそうなプランとして持ってきていただけたのがよかったです」

徳武:「単に材料を変えてコストを下げるよりも発想ややり方を変えてアイデアを出すことで、理想を実現するための努力を意識していました」

イレギュラーを乗り越えて
多様なアジアを楽しめる空間へ

5階は、落ち着いた雰囲気のレストラン。Dōngxī Restaurant&Sakabaだ。このフロアでは、スペースからは猪口がメインで指揮をとった。

小川:「5階は、途中で大きな方向転換がありましたね。当初は和食レストランの予定から、様々に検討した結果、アジア料理のお店にしようと。インテリアも、こだわりが詰まっていたので実現は大変だったかもしれませんね。朝昼晩、それぞれの光の具合で表情の変わる空間を意識した設計となっていました」

5階は途中変更やインテリアのこだわりも大きく、そのぶん多くの調整が必要であった。思い描いた空間をそのままに実現できるよう、多くの関係者との調整や対応を行ったのが猪口と西山だ。

猪口 信幸 / 施工(5階)

猪口:「方針転換を言い訳にいろいろなものを諦めていくことは簡単だったかもしれませんが、そうはしませんでした。たとえば、フロアに壁をつくってエリアを仕切るための予算も工期もない。ならばどうするかとなれば、じゃあ背もたれの高いソファをいれれば、それが仕切りの役割をするじゃないか、とか。みんなでアイデアを出し合いながら解決を目指しましたね」

猪口 信幸 / 施工(5階)

西山:「パートナー企業や現場の職人さんとの相談・調整はかなり密に行っていたと思います。小さなことでも書類の確認や電話をして関係各所へ相談するなどのパートナー企業との関係づくりが大切でした。アイデアを形にするため、できる限りのことはやってみようと考えていました」

江連:「困難は多かったけれど、基本の姿勢として、つねに実現に向けた議論が行えたのはよかったですね」

猪口:「個人的には、炭入りのシックなグレーの左官は壁の仕上げに関して、みんながイメージしている風合いにできるのか、実は不安でした。仕上げ直後は真っ黒、でも乾いたら白くなりすぎてしまうのでは、と。床も同じように色味は工夫が要りました。白化現象を防ぐ薬剤を調整するなど、試行錯誤しました」

小川:「実現方法をすぐ提案していただけるんですよね。そうするとまた、もっとよくできそうだと、違うアイデアが出ちゃってさらに大変になるんですけど(笑)」

メタボールとスパと和
初の試みが満載の、
渋谷を一望できる場所

18階エンターテインメントレストラン&バーは、スパがあり、DJブースがあり、メタボールに反射したライトが舞う。渋谷らしさを味わえる空間だ。スペースからは新井が現場を担当した。

河野:「18階は、渋谷の街が一望できるとても眺めのいい場所。かつ、インバウンド客を意識して『和』というのもひとつ意識したところですね」

これまではアパレル店舗を主に得意としてきた新井。飲食店舗はあまり経験がなかったものの、理想を追求する姿勢はこれまでの仕事と変わらずコンセプト実現に努めたという。

新井 聡 / 施工(18階)

新井:「設計案では、『水』もテーマとして重視されていました。スパだったり、ドリンクの提供も。天井に設置されたアメーバのような流線型のメタボールも、水を意識して設計されたものだと聞いています。渋谷らしさが実現できるコンセプトだと思いました。そしてこのメタボールは、このフロアでは難所でもあったんです。予算や納期との戦いでした」

新井 聡 / 施工(18階)

江連:「模型をつくってきていただいたときには感動しました!」

新井:「みなさんが頭の中で思い描いているものがきちんと見えるものになるように、サンプルをつくるときは意識しています。今回はメタボールの表面のキラキラした素材を、1枚ずつ手作業を貼り合わせる仕様に。逐一現場の方に写真を撮ってもらい、細かく進行を確認していました。色味ひとつ、素材感ひとつ、徹底的にチェックを行ったんです」

江連:「過程を見られたこともあり、『一緒につくった』と感じることができました。外注するだけ、カタログから素材を選ぶだけ、ではない。いつもよりよい提案がもらえたり、思いもよらなかった解決策を提示してもらいました」

楽しみ方はそれぞれに
多様性の感じられる場所を

多くの山場を乗り越え、sequence MIYASHITA PARKはオープンへ。大規模なプロジェクトを、それぞれの視点から振り返ってもらった。

河野:「それぞれ3つのフロアはすべてお酒が楽しめる空間であることは共通しているのですが、雰囲気はまったく違います。いろんな楽しみ方があり、当初意識していた多様性が実現できたと改めて思いました」

江連:「オープン日に、それぞれのフロアの様子を見ていたんですが、楽しみ方が人によって本当に様々で」

小川:「そうですね。大変なことも多かったけど、これが最良だと自信を持って言い切れる出来になったかなと」

徳武:「一見無理難題でも、最初から『いや、できるはず』と信じて取り組むことにしていました。だからこそよりよい提案、よりよい成果につながったのかなと。今回新しいチャレンジがたくさんあって、だからいい空間にできたと思いますし、そういった経験を社内に持ち帰って、次の新しいチャレンジにつなげていけたらと思います」

Designer’s Voice

  • 永井 健太 氏

    SUPPOSE DESIGN OFFICE株式会社

    4階カフェ / デザイン・設計

    細部まで本質を追求し、
    理想を実現するパートナー。

    スペースさんは初めてお仕事をさせていただいたのですが、最初は「安定している会社」というイメージがありました。安心感がある一方で、攻めたことに付き合ってくれるだろうかという思いも(笑)。しかし実際にプロジェクトが動き出してみると、図面を渡し「このとおりにやってください」で終わりなのではなく、ものづくりを一緒にやってくれるパートナーだと感じました。4階のカフェは公園と地続きで、公園のようなホテルであり、ホテルのような公園となる空間を考えていました。コンクリートの型への流し込みや、欅を使ったテーブルなど、細部にもこだわりがあります。前例のないことへたくさんチャレンジしましたが、本質を追求し、やりたいことを共有し続けられたのではないでしょうか。

  • 柳原 照弘 氏

    TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO

    5階レストラン / デザイン・設計

    「いいものをつくるために」
    から始めよう。

    5階レストランは、他のフロアと比べ進行がかなり大変だったのではないかと思います。当初は和食レストランとして準備を進めていたものの、途中で方向性をガラリと変えて、アジア料理レストランへ。スペースの担当者さんとはかなりコミュニケーションをとり、フットワーク軽く動いていただきました。さすがだなと思ったのが、変更点の多い中でも、妥協のないことです。早く仕上がる、コストが低い、といったことよりも、優先するのは常に「いいものができるかどうか」。朝昼晩、それぞれのシチュエーションに合わせて表情の変わる、居心地のいい空間であるためにはどうすればいいかという議論から出発できるのがありがたかったです。

  • 飯澤 元哉 氏

    株式会社noiz

    18階レストラン&バー / デザイン・設計

    どれだけ夢のようなアイデアでも、
    最小限の図面で共有できる。

    18階エンターテインメントレストラン&バーは、「和」と「水」をテーマにした社交場を意識した空間です。「ちょっと変」で、他の施設にはないような。もっと言うなら、目指したのは何も考えずにはしゃげるようなバーです。天井にはアメーバのような形のメタボールを設置したり、水着で入れるスパを用意してみたりと、経験やノウハウのないなかで試行錯誤しましたね。私たちの世界では、いい内装会社さんとタッグを組むと、デザイナーは図面を描きすぎなくなると言われています。今回もまさに、そんな感じでした。スケッチをいくつか描くだけで意図を理解しカタチにしていってくれる。そういった信頼関係があると、仕上がる物件も自然といいものになっていくんでしょうね。

Project Member

  • 小川 弘純 氏株式会社ウェルカム
    事業開発部
    sequence 総合プロデュース
    飲食店舗企画・運営

  • 徳武 輝彦戦略推進本部

    本プロジェクトにおける役割:
    4階、5階、18階の施工マネジメント・
    施工(4階)

  • 新井 聡戦略推進本部

    本プロジェクトにおける役割:
    施工(18階)

  • 猪口 信幸戦略推進本部

    本プロジェクトにおける役割:
    施工(5階)

  • 西山 菜摘戦略推進本部

    本プロジェクトにおける役割:
    4階、5階、18階の搬入管理

業務範囲:施工

(※肩書および所属は2020年11月時点のものです)
(※永井氏は2020年8月、飯澤氏は2020年6月で上記事務所を退社)