Story次世代型店舗開発プロジェクト カインズ 吉川美南店

クライアント:株式会社カインズ 様

  • 物販店
  • 企画・プロデュース
  • デザイン・設計
  • 制作・施工
  • にぎわいの創出
  • 地域の活性
  • 関東

いちばん新しくて、
いちばんカインズらしい。

2025年12月11日、JR武蔵野線・吉川美南駅前にオープンしたカインズ 吉川美南店。約6年にわたる構想を経て誕生したこの店舗は、カインズの“第三創業期”を象徴する次世代型店舗だ。延べ40〜50名規模の社員へのヒアリングを起点に、ブランディングからコンセプト設計、環境デザインまでをスペースと共創。カインズが大切にしてきた想いに立ち返りながら、働く人の誇りや、お客さま視点の思想を改めて掘り起こしたプロジェクトだ。国内外からの視察団も訪れるフラッグシップ店となった次世代型店舗プロジェクトのバックステージに迫る。

Point

  1. 01 カインズの第三創業期を
    リードする、次世代型店舗
  2. 02 数多くの社員の声を起点に、
    コンセプトから伴走し設計
  3. 03 地域の憩いの場として、
    「住みたいまちづくり」に貢献

Project Member

PROFILE

  • (左)

    Kosaku Kibe

    木部 厚作

    株式会社カインズ
    店舗建設部
    デザイン管理グループ
    グループマネジャー

  • (中央)

    Shinya Matsumi

    松見 慎哉

    株式会社スペース
    商環境研究所
    企画デザイン室 第2企画デザインユニット
    ユニットリーダー / デザイナー

  • (右)

    Mitsuhiro Tanaka

    田中 三弘

    株式会社スペース
    商環境研究所
    プロジェクトマネジメント室
    室長 / シニアプランナー

Chapter 01

第三創業期へ。
カインズの未来をつくる、
次世代型店舗のはじまり。

カインズには、第一創業期にチェーンストアとしての基盤を築き、第二創業期にSPA(製造小売)企業として商品開発の領域を広げてきた歴史がある。そして第三創業期を見据え、これからの成長を担う次世代型店舗のフォーマットづくりが、約6年前から動き出していた。社内の期待は大きく、さまざまな人たちの声を反映し、行政とも綿密に打ち合わせを重ねながら、2025年12月にオープンしたのが「カインズ 吉川美南店」。その、最初の一歩だった。

木部

この吉川美南店のプロジェクトは、カインズの次世代型店舗構想の具現化です。6年ぐらい前から構想を練ってきて、昨年の12月にやっと現在の形でオープンできました。カインズの第三創業期というのは、これまで築いてきたものをどう進化させ、昇華させていくか、というフェーズです。吉川美南店は、今後の強力なフォーマットとなり、これからの成長の武器となる店舗。「カインズの未来をつくる店舗として、絶対に成功させる」、経営陣からメンバーまで、そんな強い想いのもとでプロジェクトが走っていました。

しかし、この吉川美南店を具体的にどのような店舗として具現化するのか。カインズとして大切にしたい確かな熱量や想いは社内に存在していたものの、それを一つの明確な「形」や「言葉」として共有する作業は、容易ではなかった。

Chapter 02

かっこいいだけでは、
「次世代のカインズ」とは
言えない。

社内でストーリーを練り上げ、外部パートナーと組んで、最初のパースが上がってきた。光の飛び交う、洗練された「未来」のイメージ。「格好いい」と誰もが思った。けれど、これでいこうと胸を張って言える人は、誰もいなかった。2024年10月、長年カインズの店づくりに携わってきた木部は、従来から付き合いのあったスペースに連絡を入れる。プロジェクトをリードすることになった田中は、当時をこう振り返る。

田中

顔合わせの前に、パースを見せてもらっていました。それが、すごく格好よかったんですよ。だから私も、本当に素直な気持ちで聞いたんです。「なんで納得していないのか、教えてください」って。そこが、このプロジェクトのスタートになりました。

松見

僕もパースを見せてもらいました。デザイナーとして感じたのは、「次世代」という言葉に引っ張られ過ぎているんじゃないか、ということですね。格好良くて、洗練されている。でも、これがカインズにとっての次世代なのかな……という違和感は確かにありました。

木部

なぜ、納得できなかったのか。その理由はとても簡単でした。私自身も長年、カインズで店舗づくりを経験してきましたが、そのパースでなければならない理由を、自分で説明できなかったんです。だから、格好いいけどしっくりこない、という状態がずっと続いていたんだと思います。

田中

その言葉を聞いて思いました。「しっくりこない」ということは、カインズの人たちが大事にしている何かが抜けているんだろうな、と。それなら、そこを言語化するところから始めよう。もっとたくさんの人たちの声を聞こうと動き始めたんです。

Chapter 03

答えは、
一人ひとりの中にあった。

田中は、役員から現場担当者まで、役職と部署の垣根を越えたヒアリングの必要性を訴えた。提案したのは、社内でも前例のないワークショップ形式のヒアリング。木部は、別の部署の役員や社員たちに依頼して、延べ40〜50名の声を集めていった。

木部

私がこのポジションに就いて10年ほど経ちますが、これは初めての取り組みでした。でも、声をかけた人たちは、とても前向きに協力してくれた。みんながワクワクした笑顔で新しい店舗への期待を語り、自分たちの仕事に対する誇りを教えてくれる。それを目の当たりにしたとき、このプロジェクトの責任の大きさを改めて実感しました。私自身もみんなの期待に応えようという、とても前向きな気持ちになったことを思い出します。

ワークショップを進めながら田中が確信したのは、「答えはすでに、社員一人ひとりの中にある」という事実だった。

田中

みんなが一生懸命に自分たちの大切にしていることを言葉にしようとしている。そこに真剣になれる会社って、すごいなと。誇りとか、スピリットがずっと引き継がれているような感覚を持ちました。

Chapter 04

「フューチャーじゃなく、
アドバンスだ」という発見。

たくさんの社員の想いは見えてきた。けれど、それだけではまだ、一本の軸にはならない。転機は、ある役員の何気ない一言から生まれた。

田中

ある役員の方がふいにおっしゃったんです。「いろいろあるけど、一番大事なのは、買い物をするお客さまに不便をかけないことだよ」って。それまでにいただいた資料は、「次世代」をデジタルでどう実現するかばかりが考えられていた。でもその瞬間、こっちが先なんだ、と。デジタルは、それを助ける手段でいい。すべてが、スーッと一本につながった気がしました。

田中

これまでの進化のなかでやってきたことは、正解であり、変える必要もない。私たちはそれを「フューチャーではなく、アドバンスだ」と伝えました。漠然とした未来ではなく、今あるものを一歩ずつ前へ進めていく。同じ次世代でも、思考の向きがまるで違うんです。

当初、スペースが提案したストアコンセプトは「感情提案型店舗」だった。だが、カインズの役員から「言いたいことはわかります。でも、もっと皆が解釈しやすいものにしてほしい」と要望があった。「1年目のパートさんが見ても、カインズってそういう店なんだとわかるようにしてほしい」という言葉に、プロジェクトチームは改めて気づかされた。「本来の意義はそこにある。難しい言葉なんて要らない」。そうして、ストアコンセプトは、誰の心にもまっすぐ届く言葉へと翻訳された。それが、ワクワクするような店舗体験を言語化した、「ココロ提案型店舗」であり、「いいもので、くらしを笑顔にする」という言葉だった。

田中

コンセプトは、自分たちの考えをただ投げるものじゃない。みんなから聞いたことを、「これですよね」とお返しするもの。とても大切な言葉の仕事なんです。

役員や社員の声を起点に磨かれたコンセプトは、木部にも深い納得感をもって受け止められた。

木部

心の中にみんなあるけど言葉にできていなかったものを、言葉にしていただいた感覚でした。そうそう、それそれ!といった感じで。

Chapter 05

「お店に、まちをつくる。」
そして、住みたいまちへ。

ストアコンセプトが「何のために」を定めるなら、それを空間へ翻訳する軸となったのが、デザインコンセプト「お店に、まちをつくる」だ。根底にあったのは、カインズが以前から実践していた「ひとつの店のなかに、いくつもの専門店が集まっている」という考え方だった。

木部

それをさらに発展させて、田中さんが「下町の商店街のイメージなんです」と言ったときに、それだ……と思いました。

田中

専門店として存在するそれぞれのコーナーを、路地や、せり出した商品がつないでいく。バラバラの店が、それぞれの情緒を主張しながらまとまっていく。そこが面白いんですよね。

松見はそれを、緑地・外装・店内という3つのレイヤーで環境デザインへ落とし込んだ。まちは店の外へもにじみ出し、カフェやドッグランなど、誰もが自然体で立ち寄れる佇まいになった。

JR武蔵野線・吉川美南駅前。緑地・外装・店内という3つのレイヤーで設計された空間は、まちの側へとにじみ出していく。
カフェやドッグランなど、誰もが自然体で立ち寄れる場所が点在し、地域の憩いの場になっている。

オープンから約1年。働く人にも、訪れるお客さまにも、この店は着実に受け入れられていった。国内外からの視察も相次ぎ、想定を超える反響が届いている。その手応えは、プロジェクトがカインズ社内でも最高評価を受けたことにも表れている。

田中

このまちに初めて降り立った人に、「カインズがあるから、このまちに住みたい」。そう感じてもらえるお店になったら素敵ですね。

松見

僕は、環境デザインがそれほど大きな力を持っているとは思っていないんです。だからこそ、ここで働く人が輝ける場所をつくりたい。輝ける場所で人が輝けば、お客さまも自然と楽しくなる。そんな場所であってほしいと思っています。

空間の力を過信しない。そんなデザイナー松見の感覚は、プロジェクトを走り切った木部の中にも、確かな学びとして残っていた。

木部

このお店をつくる中で、学ばせてもらったことがたくさんあります。どんなにいい空間をつくっても、主役は商品と、それを買ってくださるお客さまなんです。何もないところに置かれていたら、どれだけいい商品でも、買いたいとは思ってもらえない。でも、空間によって商品の価値は変わる。同じ100円のものでも、「買ってみようかな」と思える空間であってほしい。空間をつくる以上は、その「買いたい」という気持ちを、ずっと後押しし続けたいと思っています。

「いちばん新しくて、いちばんカインズらしい」。働く人の誇り、住みたいと思えるまち並み、商品とお客さまを主役に据える思想。前例のないヒアリングから社員一人ひとりの声を掘り起こし、それを言葉と空間に起こしていく。その挑戦の新しさも、突き詰めればカインズがずっと大切にしてきた「らしさ」に根差している。そのすべてが、一つにつながっていく。カインズの第三創業期は、吉川美南店という最初の一歩を、いま踏み出したばかりだ。

エリアごとに色を変えた壁面が、下町の商店街のように売り場と売り場をゆるやかに仕切っていく。
販売ロボットが、お客さまの知りたい商品についての情報を提供する。テクノロジーが省いた手間が、店舗メンバーがお客さまと向き合うための時間に変わっていく。

Project Member

  • Shinya Matsumi

    松見 慎哉

    商環境研究所
    役割:ディレクション / デザイン / 設計

  • Mitsuhiro Tanaka

    田中 三弘

    商環境研究所
    役割:ブランディング

業務範囲:ディレクション / ブランディング / デザイン / 設計 / 制作・施工 / 内装監理

(※肩書きおよび所属は2026年8月時点のものです)