StoryTAVERY WALKER ワン・フクオカ・ビルディング
クライアント:明治屋産業株式会社 様
- 飲食店・食物飯店
- 物販店
- 企画・プロデュース
- デザイン・設計
- 制作・施工
- リーシング
- にぎわいの創出
- 九州・沖縄
老舗に新しい風を。
事業の壁を越えた、ときめきの食空間。
2025年4月、九州随一の繁華街・天神一丁目にグランドオープンしたワン・フクオカ・ビルディング(通称ワンビル)。その地下一階で賑わうのが、グローサリーとレストランの融合したグローサラント施設、TAVERY WALKER(タベリーウォーカー)だ。運営するのは福岡の地で60年以上精肉小売業を中心に発展してきた明治屋産業株式会社。同社が初めて事業の垣根を越え、新業態を生み出したのが今回の店舗である。伴走したスペースとしても、ブランドづくりから商品ラインナップの提案まで、店舗の企画に一から携わるのは従来の枠組みを超えたチャレンジングな取り組みだった。まっさらなカンバスに「やりたい」を重ね、二人三脚で進んできた4年半を振り返る。
“料理離れ”の時代に、
生鮮市場は何ができるか
島田 嘉幸 様 / 明治屋産業株式会社
フードマーケット事業本部 本部長
タベリーウォーカーの企画の“はしり”は2021年に遡る。テナントのリーシングや既存店の改装など、よろずの相談事に乗る中で、フードマーケット事業本部の島田氏から「実は」と話が持ち上がった。
島田:「明治屋産業は、1962年に精肉小売業として開業した福岡の企業です。事業の柱は今も昔もお肉。本社工場では1976年以来、地元の皆様に向けてお肉を安く提供する“びっくり市”を開催し続けています。そんな私たちが、来たる60周年を前に新業態に取り組もうとご相談したのが今回のタベリーウォーカーでした」
島田 嘉幸 様 / 明治屋産業株式会社
フードマーケット事業本部 本部長
明治屋産業が新業態に挑もうとした背景には、長年フードマーケット事業を運営する中で抱いてきた、ある危機感があったという。
島田:「“生鮮食品を買ってきて家で調理する”というライフスタイルが崩れてきているのを肌身で感じていたんです。今のままではフードマーケット事業は行き詰まるのではないかと強く懸念していましたし、社内の雰囲気が硬直化しているとも感じていました。その突破口をつくるために、事業同士の掛け算から新業態を生み出せないものかと考えたんです。カフェと本屋が合体したブックカフェが定番化したように、事業本部同士を連携させることで風穴が開けられるんじゃないかと。スペースさんはトレンドに詳しく、我々にない消費者視点もお持ちですから、ぜひ企画段階からパートナーとして一緒に取り組んでいただけたらと思いました」
アクセサリーや雑貨を選ぶように
ときめきを感じながら
食品を選んでほしい
布川 陽子 / 企画、デザイン、ブランディング
新村 裕介 / 営業、ディレクション
打ち合わせを通じ、フードマーケット事業とレストラン事業を掛け合わせたグローサラント(=グローサリー+レストラン)として展開する方向に話が進んだ。折しも天神一丁目にワンビルの建設が決定し、その地下一階FOOD HALL区画に入らないかという打診が。この機を逃すわけにいかないと、島田氏は自身の頭の中にある構想を急ピッチで提案に練り上げていった。
布川:「社内で企画を通していく島田さんをサポートするため、私たちも大急ぎで提案資料を準備しました。まず、コンセプトは“FOOD is LIFE! (フーディーズライフ)”。食通(フーディ)たちの集まる店にしたい、こだわりの食材や健康にいい食べ物をあれこれ楽しく買い求めるライフスタイルをお届けしたいという想いを込めました」
布川 陽子 / 企画、デザイン、ブランディング
島田:「買い物体験が“楽しい”ことを特に重視しました。生鮮食品をスーパーで買うのはルーティンというか、ちょっと義務感もあるじゃないですか。そうではなく、アクセサリーや化粧品、雑貨を買うときのようなときめきを感じられるお店にしたいなと。私が趣味の釣具を買うときの気持ちと同じかもしれません(笑)」
新村:「より具体的にどんなお店にするかを考えるにあたり、序盤の段階で島田さんたちと京都・大阪・神戸に視察に行きました。二日間にわたっていくつもの食品店を巡り、売り場づくりや商品ラインナップなどを調査。プロモーションがキーになると思われたので、食品に限らず雑貨屋にも訪ね、ギフト商品として参考になりそうなパッケージデザインをいくつも収集しました」
新村 裕介 / 営業、ディレクション
島田:「楽しかったですね。そうやって一緒に一つずつイメージを拾い集め、私たちの要望も加えてスペースさんが仕上げてくださるご提案資料は、いつもすごく『読みたくなる』ものでした。写真やイラスト、手書き文字がふんだんに入り、売り場がイメージしやすくて。ページをめくるたびに『わ!』とときめきがありました」
布川:「ありがとうございます。今回はこちらからご提案書として一式つくり上げてお持ちするのではなく、一緒にブランドの全体像を組み上げていくことを大切にしていました。そのためアイデア段階のものも全て写真やスケッチで共有し、会話を重ねました」
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立体的に施設のイメージができるようにつくられた当初のアイデアスケッチ。
時には打ち合わせの中で書き込みも行い、ブラッシュアップを続けながら、互いのイメージを擦り合わせていった。
江頭 秀一 様 / 明治屋産業株式会社
レストラン事業本部 取締役 本部長
島田:「あの密な会話のおかげで私自身もプロジェクトの軸がクリアになり、腹落ちする構想が描けたと思っています。ただ、いざ社内プレゼンを行っても、『リスクがある』と根強い反対意見もあり。私はとにかく『福岡の地元企業として天神一丁目に店を出さない理由はない!』と何度も説得を続け、同時にレストラン事業本部とも連携。一緒に社内を動かしていきました」
島田氏にとって、控えめながらも強力な「社内の相方」となったのが、レストラン事業本部の責任者である江頭氏だ。
江頭:「初めての試みなんだから、失敗してもいいじゃないかと私としては思っていて。気負わずに協力を続けていたら、次第に社内の空気も変わり、最終的には社長の賛同を得て本格的に始動しました。島田さんの粘り勝ちですよ」
江頭 秀一 様 / 明治屋産業株式会社
レストラン事業本部 取締役 本部長
会社に、新しい風が吹いた!
グローサリーにはどんな商品を並べるべきか。いくらの価格帯を狙うべきか。盛り上がっていくチームの熱は明治屋産業全体に波及し、いつしか「やりたい!」という若手たちを惹きつけていった。
島田:「店に置く商品の最終決定は私たちが行いました。が、選ぶ段階では相当布川さんにもご意見を伺いました。『私だったらこれが欲しい』と率直に言っていただけて大変助かりました」
布川:「パッケージの可愛さや、手土産としての選びやすさ、自分へのご褒美など、純粋に一消費者としての意見を述べさせていただきました(笑)。もちろん個人の感想だけで進めていいものでもありませんから、エリアを考慮した価格設定や、“通勤時間が他の都市より短い”という福岡の特性からして冷凍品や冷蔵品も売れるんじゃないかなど、裏付けを出しては資料化して一緒に詰めていきました」
江頭:「さらに、初めての事業部間共創ということもあり、スペースの皆さんが各事業部に与件や要望を細かくヒアリングしてくれたんですよね。そうした機会を通じてじわじわとプロジェクトそのものに社内の注目が集まり、次第に若手たちが“自分たちも参加したい”と言って集まってきてくれました」
島田:「コンセプトや業態が、若者の感性に刺さったのだと思います。『あのケーキ屋さんの紙袋が可愛かった』『あそこの店のサービスが良かった』などの情報提供も盛んにありました。加えて、企画制作課のメンバーが“タベリーちゃん”というキャラクターの提案をしてくれたんです。曰く、タベリーちゃんが世界中を旅して見つけた商品がタベリーウォーカーに集まっていて、それを紹介していくという物語性を持ったお店にしたらどうかと。若手がそこまで情熱を持ってくれたことに感動しましたし、実際、タベリーちゃんが登場してくれたおかげで、多様な商品ラインナップにもストーリーが生まれるようになりました」
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タベリーちゃんの企画資料と、実際のパネル・グッズ。
デザインで、
二つの事業の「融合」を表現
商品や季節の移り変わりを引き立たせるため、タベリーウォーカーの店舗デザインは意図的にプレーンなものになっている。什器には、海外のマルシェで使われるような木箱やワゴンを使用。そのシンプルさの裏で、店舗としての一体感や、ビル全体の共用部との調和には高度な計算が働いていた。
吉村 繁 / 設計
吉村:「チームで最も話し合ったのは、レストランが入るデリカ&バルゾーンとグローサリーゾーンを、いかに一体的に見せるかです。見た目のデザインだけでなく、人の流れが分断されないような動線設計も含めて工夫を凝らしています」
吉村 繁 / 設計
布川:「レストランでお出ししたワインをレジ前ですぐ買えるようプロモーションコーナーを置くなど、島田さんや江頭さんと話し合いながら相乗効果を図りやすいレイアウトを組んでいきましたね」
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レストラン前のプロモーションコーナー。
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グローサリーのレジは壁を背中にせず、中央に置いてレストランと対面させている。
これにより一体感やシーンが生まれ、さらには壁面の全てが商品陳列に使えるようになる。
吉村:「また、通常は区画ごとに別店舗が入るところを今回は5区画にまたがってタベリーウォーカーとして使用するため、フロアの共用通路が店舗内を横切ることになります。そのような状況で5区画を一つのテナントとして見せるためには、通路がどんな意匠になるかを事前に施設側に確認し、天井や壁も含めてタベリーウォーカーのデザインが共用部に馴染むよう合わせていく必要がありました」
新村:「それでも最後の方まで共用部のデザインに変更があったんですよね。タベリーウォーカーの工事は既に終わっていたのですが、そうした変更に合わせるために我々側の意匠ももう一度調整した方が良いと考え、追加工事をしました。仕上がりを見ても『粘り強くやってよかった』と思いますし、明治屋産業の皆さんにも工事の必要性をご理解いただけて大変感謝しております」
島田:「内装デザインに関しては、プロであるスペースさんに全幅の信頼を置いてお任せしていました。共用通路の上にタベリーウォーカーのサインを出しているのですが、これも本来了承されていないものをスペースさんが施設側と交渉して設置に漕ぎ着けてくれたんですよね。おかげさまでサインが売り場の一体感を醸成しています」
お店は生き物
お客さまの顔を見ながら、
末永く育てていく
2025年4月、ワンビルのオープンと同日にタベリーウォーカーもオープン。グローサリーには国内外から選りすぐった食品がずらりと並び、レストランでは美味しい料理とお酒が来る人を心まで満たす。オープン後の状況と、今後の展望をお聞きする。
江頭:「通りすがりのお客さまたちが『わぁ綺麗!』『これ可愛いね』と話しているのを聞くととても嬉しく思います。中央の通路から見た全景や厨房のデザインは、私も大のお気に入りです。何より良かったのは、店員が作業しやすい動線を相当に考慮してカウンターや椅子の細部まで設えてくださったこと。おかげさまで開店後もスムーズにオペレーションができています」
島田:「どこを撮っても“映える”んですよ!カフェや雑貨屋さんのように、可愛くてワクワクするグローサラントができたんじゃないかと思います」
布川:「売り場の商品ディスプレイや細かな備品に至るまで常にご相談いただき、私も大変愛着を持っています。一方、オープンしてみると想定のターゲットよりやや上の年齢層の方が多く来てくださっているのもわかってきたので、お客さまに合わせて商品や売り場も変えていけたらなと。調整のしやすさという意味では、店舗そのもののデザインをプレーンにしておいて大正解でした」
江頭:「レストランでもオープン後のお客さまの動向を踏まえ、席のレイアウトの変更を吉村さんにご相談しました。アドバイス通りに変更したら、前より上手く回り出しました。照明も昼と夜でどう変えるか、どのタイミングで照度を落とすかなど、いまだに二週間に一回くらいのペースでお打ち合わせを続けていますね」
新村:「明治屋産業さんにとって、大変チャレンジングな一歩だったタベリーウォーカーです。二歩目、三歩目につなげていくためにも、まずはここをより大きな成功に導くべく、今後も密に伴走していけたらと思っております」
島田:「実は既に、タベリーウォーカーをきっかけに新しい出店依頼を受けることが何回かありました。また社外への影響だけでなく、社内の空気も今回のプロジェクトをきっかけに確実に変わってきているのを感じます。挑戦した意義は非常に大きく、それはひとえにスペースの皆さんがまるで自分たちの店を作るかのような気持ちで一緒に取り組んでくれたおかげです。皆さんの存在がどれほど心強かったことか。お店というものは、オープンしたての綺麗な状態が完成ではなく、人が入ってシーンが生まれてどんどん生き物になっていきます。その進化にこれからもお付き合いいただければ大変ありがたいです」
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布川 陽子福岡本部
本プロジェクトにおける役割:
企画、デザイン、ブランディング -
新村 裕介福岡本部
本プロジェクトにおける役割:
営業、ディレクション -
吉村 繁福岡本部
本プロジェクトにおける役割:
設計
業務範囲:企画/ディレクション/デザイン/設計/制作・施工
リーシング/ブランディング
(※肩書きおよび所属は2025年12月時点のものです)