Sustainability Dialogue社外取締役座談会

2025年度実施

中期経営計画「進化発展」を順調に進め、最終年度として迎えた2025年度。
次期中計とこれからの持続可能な発展を考えるため、
社外取締役の4名がスペース創業の地である名古屋本部に集結し、
それぞれの視点から意見を交わしました。

嶋田 博子
取締役(社外)
京都大学公共政策大学院教授。中央官庁にて公務員の人事法令策定などに携わった後、現在は人事政策論の教育・研究に従事。2023年より当社取締役。

前川 弘美
取締役(社外)
監査等委員

セントラル法律事務所シニアパートナー、弁護士。法律の専門家として、多くの企業の法的な支援に従事。1994年より当社監査役、2016年より当社取締役。

和田 良子
取締役(社外)
監査等委員

敬愛大学経済学部教授。経済学の専門家として実験経済学および行動経済学の教育・研究に従事。2012年より当社取締役。

田口 聡志
取締役(社外)
監査等委員

同志社大学大学院商学研究科教授。公認会計士。会計学の専門家として実験会計学などの教育・研究に従事。2012年より当社監査役、2016年より当社取締役。

スペースの強み

経歴やバックグラウンドも多様な皆様から見たスペースという企業の特徴は何ですか。

前川私はスペースとは1990年代から関わっています。当時経営陣が語っていた「一人ひとりが会社という場を借りて自分で商売をする」という言葉がとても響いて、個人的にも影響を受けました。現中計では「一人ひとりが経営者意識を持って行動する」という言い方をされていますが、いずれにしても「事業主感覚」を重視する会社だと理解しています。
自分自身を省みてもそうですが、何らかのプロジェクトなどに挑むときに、事業主感覚があるかどうかで人の行動はまったく違ってきます。多少のリスクを取ってでも挑戦し、その先にどんな展開が期待できるかを考えた上で決断する。それが事業主感覚というものだと思うのです。この感覚を従業員一人ひとりが持っていることが、企業にとってこれからの時代、非常に重要になってくると思います。

嶋田スペースも働き方改革をはじめさまざまな課題があるわけですが、経営陣がその課題を現場に丸投げして済ませようとしないのが、この会社の特色ではないでしょうか。経営陣の側にはきっちりと現場の声をくみ取って方針を決めていこうという意思があり、現場もそれに応えて変わろうとしている。それもまた、前川さんがおっしゃった「事業主感覚」「経営者意識」かなと思いますし、サステナビリティの実現に向けて非常に大事なところではないかと考えています。これまで、スペースの次世代の経営陣候補の方々とお話をしたときも、さまざまな点において当事者意識の高い方たちだと感じました。

田口経営者意識を強く持っている会社だということは、私も感じています。それは一人の担当者が最初から最後まで一貫して責任を持つという、スペースのビジネススタイルと強く関連しているのでしょう。
また、いつも感じるのは、「誠実さ」と「ワクワク感」を両立できているということ、そして「スペース流」を非常に大事にされているということです。例えば取締役会での私たち社外役員の発言を受け止めつつも、「スペース流」にかみ砕いて実行していくという姿勢を感じ、とても好感を持っています。この組織文化を、いかに柔軟に進化・発展させていけるかが、今後の鍵になるのではないかと考えています。

和田田口さんがおっしゃった「ビジネススタイル」の話について以前聞いたのは、例えば、デザインのことだけを考えている人は自分の理想が優先してしまい、それを実現するためにコストが積み上がって利益が出せなくなる。そうではなく最初から最後まで責任を持って仕事をしていると、経営者意識が生まれ、「利益を残すにはどういうデザインにしたらいいか」という発想になる。だからこれはきちんと利益を出すための仕組みなんだという話でした。
社員が自立性を持つ一方で、一体感を持って会社視点での言動ができるのも、田口さんの言葉を借りれば「スペース流」かなと思います。あと、企業規模の拡大において、急ぎすぎずに適切なスピードを保っていることなどもそうですね。すべての選択が「スペース流」の経営哲学に裏づけされ、さらにはそれができる人が全体に対して責任を持つ立場になっていくということが徹底されているのも、この会社の特徴だと感じています。こうした「スペース流」を、次の世代に共有していくことが、今後非常に大事になるのではないかと思います

名古屋本部

名古屋本部

スペースの課題

スペースが今抱える課題はどう認識されていますか。

嶋田今のスペースは社員1,000人程度で、まだお互いに目が行き届く規模感だと思います。これからもっと事業を拡大し、グローバルにも進出していくであろう中で、いろんな意味で目線をワンステップ上げていかなくてはならないのではないでしょうか。
そのための課題は、AI技術の進化によって多くの職種が消滅していく一方で、労働市場は縮小し続けることを前提とした経営をしていかなくてはならないということ。スペースの狙っているクリエイティビティと対人能力を必要とする仕事は、AIでは置き換えできない点で将来性が高い分野です。他方、そうした人材の獲得競争は熾烈になる。十分に人が採れなくなる中で、優先順位を付けて、どの事業を伸ばし、どこを我慢するのかを選択しなければならない時期に入ってきていると思います。

田口人的資本の重要性が増す中、例えば人材の成長をいかに支援するかといった社会的な視点を持っているかどうか、ひいては会社が社会の持続可能性に資する存在であるかどうかが問われています。これはスペースに限らず業界全体、社会全体の課題でしょう。
同じく業界全体の課題としては、物理的な空間とバーチャルな空間の境目がなくなってきている中で、生身の人と人とが出会う物理的な空間・場が非常に価値のあるものだということを、うまく社会に伝えていくことが重要になると感じています。ただ、その中でもスペースは業務提携などを通じて価値発信の試みをされていると思いますので、その点は高く評価できます。

前川私が感じる課題は、各社員の方が、ビジネスの相手になるお客様に対して、もう少し踏み込んでもいいのではないか、ということです。お客様企業がどんなビジネスをやっているのか、今何に力を入れているのか、もっと根本的なところで何を求めているのか……。そうしたところからの興味や気づきが種となり、新しいビジネスに育っていく可能性もある。それが先ほども触れた「事業主感覚」をさらに進化させるということでもあると思います。

嶋田 自分たちの利益の前に、お客様が今何を必要としているのかを考えていけば、その延長線上におのずと見えてくるものがあるということですね。

和田それで言うと最近、地域活性化に関して、社員の方から新しくスペースが旗振り役になるような事業提案なども出てきていると聞いています。これも「何が必要とされているのか」を考え、そこから一歩踏み込んで「自分たちがもっと地域のためにできることはないか」ということで生まれてきているものだと思います。
私からも一つ課題を挙げるとするなら──これは強みでもありますが、スペースは「他社との比較」をしない会社だと思います。ビジネスモデルにおいて、明確なかたちで他社との差別化ができているから比較できない、する必要がないということかもしれませんが、「スペースがこう動いたら他社はどうするのか」という戦略的な思考はもう少しあってもいいのかもしれません。この先、業界再編のような動きがあったときに、スペースが自分たちを守りながら大きくなっていくためには、そうした視点も必要になるのではないかと考えています。

未来の経営に求められる視点

次期中期経営計画策定に向けて、どのような視点が必要ですか。

前川よく、企業理念や風土の継承ということがいわれますが、私は企業というのは「何かを引き継げばいい」という感覚では伸びないと思っています。中には、それまでとはまったく異質な人材も出てくる。それを許すゆとりがなければ、新しいビジネスは簡単には立ち上がっていかないのではないでしょうか。

嶋田計画的に人を育てていくのはスペースの長所だと思うのですが、あまりに型にはめすぎると、結局同じタイプの人ばかりが集まることにもなりかねません。前川さんがおっしゃったように、今利益を出している人を評価するだけではなく、「何をやろうとしているのかよくわからないけど面白そうだな」という人材を「ちょっと伸ばしてみよう」と思えるくらいの余裕を持つ。あるいは、仕事に全エネルギーを注ぐよりも、生活者としての時間や、職場と直接関係ない人との交流も大事にする姿勢が、ワクワクするような仕事を生み出すためには重要なんだという観点から評価をする。そういう切り口を見つけるためのお手伝いを、中と外の接点にいる私たちが担っていけたらと思います。

和田プライム市場上場企業においては、温室効果ガスの削減など環境問題への取り組みについても、定量的なデータに基づく成果を示すことが求められる時代です。こうした取り組みはコストをかけても成果を出せるまでには時間がかかるので意思決定が非常に難しいのですが、サステナビリティの観点から「社会に貢献している企業」として選ばれるための投資は、今後さらに重要になってくると思います。人材の面でいっても、単に利益を上げるだけではなく社会を良くしていける企業を選びたい、自分もそこで貢献していきたいと考える人は少なくないはずです。
同様の観点から、社員の事業提案から始まった「リプロダクト推進室」の取り組みを高く評価しています。ある場所で使ったものを廃棄しないでリユースしたりアップサイクルしたりしていくことで、環境負荷を減らすだけではなくスペースの、そしてお客様の利益にもつなげる。これは、利益と環境問題への貢献を両立させようとする、素晴らしい発想だと思います。しかも、「捨てない空間づくり」という明確な方針を掲げてそこに向かっている。社員の中からこうした動きが出てくるというのは、スペース全体の中にそうした機運があるということ。次期中計もきっと、新しい社会に向き合うスペースの経営哲学が盛り込まれたものになるだろうと期待しています。

田口まず、今後のビジネスの在り方を考える上では、反実仮想──この社会が今と違う社会だったら、という視点を持ってほしいと考えています。というのは、昨今の社会において非常に重要視されている「インパクト評価」は差分思考といって、例えばスペースという会社が「存在する社会」と「存在しない社会」を比較したとき、「存在する社会」では「存在しない社会」に比してどれくらいの追加的な価値が与えられているかという考え方が基本。つまり、「存在しない社会」をイメージし、妄想する反実仮想の力が求められるのです。今後の中計策定などにも、スペースが存在する社会のほうがずっとワクワクしているはずだという視点を、ぜひ取り入れていただきたいなと思っています。
それと、期待するのは「世界を見据えたオンリーワン企業」になってほしいということ。オンリーワンにはいろいろな意味がありますが、私の分野である守りの視点からいうならば「仕組みのオンリーワン」です。通常、従業員や経営陣を評価する仕組みにおいて重要視されるのは、どのような成果を出せたかというアウトプットだと思うのですが、それだけではなくリスクをどうコントロールできたか、マネジメントできたかという「守り」についても評価できる仕組みをきちんとつくってほしいと考えています。

社外取締役としての役割

これから社外取締役としてどのような役割を果たしていきたいですか。

嶋田私は大学で公共哲学も教えているのですが、学生たちには、絶対的な正しさがない時代に、「これは社会にとっていいことか、価値があることか」という自分なりの基軸をしっかり築く必要があるといつも伝えています。専門性を持って仕事をしたいという人が多いけれど、専門性はあくまで手段だから、内向きの「正解」に陥りやすい。その手段を使ってどう「良いもの」「価値があるもの」を実現するのかを考えてほしい、と。
スペースの皆さんにも、「良い仕事をするんだ」という意識を持って日々働いていただきたい。短期的には誰かにとって良いことに見えても、将来的にはそうではないかもしれないという長期的な視点を持っていただくことが大事だと思っています。そのために、私にできる情報提供や支援をしていければと考えています。

和田私はずっと大学教員をしていて、もうすぐ社会人になる学生たちと常に一緒にいるので、新しい世代が求めていることを肌感覚で感じながら提言をしていきたいなと思っています。
それと、私はスペースの今のコーポレートスローガン「明日が、笑顔になる空間を。」がとても素晴らしいと思っています。これから世界に進出していけば、世界中の人に笑顔が咲き、その笑顔が最終的にスペースの利益にもつながっていく。会社が変わっていくときにコーポレートスローガンが変わることはよくありますが、この姿勢はずっと持ち続けてもらいたいですね。
今後は長期目線での投資がもっと必要になるでしょうし、ときには痛みを伴うことがあるかもしれない。それでも成長していくであろうスペースの姿を、今日お話に出たようなさまざまな視点から見続けていくのが、社外取締役である私たちの仕事なのかなと思っています。

前川社外取締役に求められるのは助言ではなく監督だとよくいわれます。そのことは忘れないようにしたいですが、ただ監督するだけではなく、株主だったら今の状況をどう捉えるのかといった目線からも発言や指摘をしていきたい。また法律家としての視点を持って、スペースに必要のない損失が生じないように、ということはよりいっそう気を付けていきたいです。

田口私は、どんどん社会が変わっていく中でも変わらない会計の本質を見極めようという研究をしています。その観点を生かして、スピード感を持って拡大・変化するスペースの在り方に熱い気持ちで共感しつつも、客観的・冷静な視線を忘れないようにするのが私の役割かなと思っています。現状はアクセルとブレーキのバランスがうまく取れている状態だと思うのですが、特にブレーキがきちんと機能しているか、常にチェックを怠らないようにしたい。そして株主のために、スペースのために寄与していきたいです。

  • 本ページに記載の部署・役職は原則としてダイアログ実施時点のものです。