Sustainability Dialogueスペースの“人”を考える

2024年度実施

中期経営計画の目標の一つでもある「全社員活躍の実現」。
そのために、スペースでは2023年、人事制度の改革を行いました。
背景には、どのような狙いがあったのか。そして、経営戦略とのつながりは。
人事部長と人事担当常務、人事を専門とする社外取締役の3人が語り合いました。

林 里紗

経営管理本部
人事部 部長

嶋田 博子

社外取締役

松尾 信幸

取締役常務執行役員
経営管理本部長

スペースらしさを生かした改革

今回の人事制度改革は、どのような狙いがありましたか

2018年に実施した前回の人事制度改革から5年が経ち、2023年度からスタートした新中計で掲げる「全社員活躍の実現」に向けて、再度制度の見直しをすることになりました。前回の改定のときは外部のコンサルティング会社に依頼をしたのですが、今回は当社らしさを特に大切にし、経営陣と話し合いながら独自で進めた改定になります。
今回の大きな変更として、「マネージャー」「シニアチーフ」という新たな役職を追加しました。従来の制度では、「チーフ」になった後、次は管理職か専門職にステップアップしていくのですが、チーフの期間がどうしても長くなってしまい、モチベーションを保ちにくい傾向がありました。今回新設した「マネージャー」は、次期管理職・専門職候補として会社から推薦されて就任するポジションのため、周りからも「会社から期待されている人」と認識されることになります。若手社員の成長実感やモチベーション向上につながると考えています。
「シニアチーフ」は、シニアの方の活躍推進のために設置したポジションです。これまでは、55歳になって役職定年を迎えると一般職に戻ることになり、待遇面やモチベーションの低下が懸念されていました。そこで、役職定年の時点で管理職に就いている人は、「シニアチーフ」への移行を可能とする制度としました。また、専門職の役職定年は廃止し、専門職として活躍を続けていただくこともできるようになりました。

嶋田社外取締役の立場で見ていましたが、スペース内部でつくられたということもあり、地に足のついた、人を大事に育てていこうという社風が表れた人事制度になっていると感じています。途中段階で申し上げたのは、社員が理解しやすいようもう少しシンプルでもいいかなということくらいで、いい制度になって、効果的に運用していると思います。

社員がキャリアを描くために工夫した点はありますか

社員が自分自身のキャリアについて考える機会を持つためにキャリア申告制度を設けました。これまでも年間目標は立ててもらっていましたが、もう少し中長期的な目線で自分がどうキャリアを積んでいきたいか、どう活躍していきたいのかを考えてもらうための制度です。もちろん、以前も上長とそうした話をする機会はあったと思いますが、それを改めて制度化することで、会社としても社員一人ひとりの目標や希望を把握し、サポートしていけるようにしました。
その他、これまで「プロフェッショナル」と「技術職」に分かれていた専門職を「プロフェッショナルコース」に一本化したのも今回の変更点です。ただ、専門性を持った人物像をより具体化して社員に提示していく必要を感じています。すでにプロフェッショナルとして活躍されている人たちを交えて考えていきたいです。

松尾「マネージャー」というポジションだけでなく、もう少し細かく段階を分けたほうが成長実感を得られるんじゃないか、という意見もありますし、経験豊富なシニア層の力も生かしきれていないところがあるかもしれません。そうした課題も認識しつつ、よりいっそう社員が力を発揮していける制度へと成長させていきたいと考えています。

全社員のさらなる活躍を生み出すことが経営戦略につながる

「全社員活躍の実現」を打ち出した背景とポイントを教えてください

松尾時代の変化によってお客様のニーズは変わってきていますし、それによって社員に必要とされる能力も変わってきます。20年前とは業務の幅が全然違うので、その分活躍できる社員の幅も広がってきていると感じます。さまざまなタイプの社員がなるべく長く活躍できるように改革していくことが、多様化するお客様からの期待に応えることにつながっていくのだと考えます。
活躍できる人材を育てるという点で、信頼して任せるということが大切だと思っています。私自身の若いころの経験を振り返っても、先輩が現場に行く前に「もうこの現場はお前に任せるから」と送り出してくれたことで、頑張ろうと思えたし成長できたと実感します。今の若い世代にもぜひ、そうした経験をしてもらいたい。研修なども重要ですが、実務の中で経験してこそ身につくこともたくさんあると思うのです。失敗してもまたチャンスを得られるのがスペースの良さだと思っていますし、そうした文化は今後も残していきたいと考えています。

嶋田私も若いころ信頼して任せてもらったことが何よりも自分の成長につながったと感じています。失敗してもチャンスを得られるカルチャーがあるのは社員にとって心強いと思いますし、ぜひ大事な文化として守っていただきたいですね。
また、専門性を磨きながら、経営や社会の動きなど、専門性の先の広がりも持たせられるような育成が重要だと思っています。自分の専門分野だけわかっていればいいという姿勢では次のステージには行けないということですね。そのためには、社内の別の部門との交流機会も必要になってくると思います。

松尾確かに、若いころ、会社の仲間とよくキャンプやバーベキューに行って、そこで焚火を囲みながら仕事や会社について話したのが、今思えば視野を広げる貴重な時間だったなと感じます。今も社員によく「雑談して」と言うのですが、ミーティングでも打ち合わせでもない雑談は本当に重要で、なんでもない話から見えてくるものがたくさんあると思います。

今は在宅勤務もできて働く時間の自由度も高まっているので、みんなが揃う時間というのは減っていて、その分意識的に雑談の機会をつくり、これまで受け継がれてきた文化を残していくことも重要かもしれません。各本部でも年1~2回程度社内交流会を開催しています。先日東京で開催したときは、事業部長たちがホスト役になって、若手社員を逆にもてなすという試みをしてみました。普段なかなか接点のない部署の人同士が交流を深める機会になっています。

嶋田同時に、オフの日などには会社と関係ない場に出ていって色んな人に会うことも大事にしてほしいですね。そういう感性を磨く時間をつくることで、専門領域にとらわれない活躍ができるようになっていくと思います。

経営戦略とのつながりについて意識している点はありますか

松尾人事戦略において、社員一人ひとりの力を伸ばしていくとともに、組織としても最大限の力を出せるようにすることが、経営戦略の実現につながると考えています。一人では課題解決できないことも多いですので、個々の力だけではなく組織として強くしていくことが、会社の成長には必要です。
もちろん、個を大切にすると、個人の目指すものと会社全体が向いているベクトルにずれが生じてくる可能性もあります。ただ、中期経営計画の発表や社員総会などを通じて、会社がやろうとしていることは社員にしっかりと伝わっていると感じています。そこに共感してくれる社員を増やしながら、社員が会社の方向性を認識しつつも、できるだけ自由に動いてもらえるようにしたい。部下にもよく「私が止めたくなるくらいの勢いでいってくれ」と言っています。自由にやってもらって、必要なときにブレーキをかけるのが私の役目だと思っていますね。

中期経営方針にも「自ら考え、行動し、成果にこだわる」「一人ひとりが経営者意識を持って行動する」とあるように、まずは社員がしっかりと自分の頭で考えて動くことが大事なのだと思います。
ただ、目の前のことをこなすのに精いっぱいで、上司に止められるほど自由に動く余裕がないという部分もあるかなとも感じています。多様な働き方の推進などを通じて、考える時間や自分の考えに従って動く時間も取れるようになってくることを期待しています。

嶋田人材を計画的に育てるということは、時に特定の理想型にはめることにもなってしまいますよね。でも、組織の成長にとってはこれまでとはまったく違う視点で暴れ回るような人も重要だと思うので、そうしたことをむしろ奨励されているというのは、いいバランスだなと感じました。
今後は、社会全体で人が足りなくなっていく時代です。いわば「希少資源」ともいえる人の能力を、最大限にまで引き出すことが経営戦略そのものになっていくのではないかという気がします。もちろん、これまで人が担っていた仕事が生成AIなどに置き換わっていくという面もあるでしょうが、スペースが担っている「美しい」「楽しい」「快適だ」などの感性の部分は、置き換えが利かないものだと思います。

人材の多様性を生かすために必要なことはどう考えていますか

松尾まずジェンダーについては、性別を問わず当社を選んでいただいた皆さんに、働きがいを感じて面白く働いてもらえる会社になることを重視しています。
一方で、出産などを理由に一時仕事から離れるのは、男性より女性が多いのも事実です。そういった方々の声を参考に、今回の制度改革で、フルリモートや超短時間勤務など多様なワークスタイルを追加しました。さまざまな状況にある方たちに長く安心して働ける会社にしていければと思っています。
ただ、色々な事情で残業できない人がいた場合に、どうしても他の社員から「なぜあの人は残業しないんだ」と思われてしまうことがあります。でも、そう感じている人もいつか、自分が残業できない立場になるかもしれない。もっと互いを尊重し合える社風をつくっていきたいです。

男性も女性も、結婚や出産、介護などでライフステージが変わったときにはまたワークスタイルを変更して、また変われば元に戻して……というように、長く働き続けてもらえるような制度にしていきたいですね。

嶋田これは以前関わっていた職場のケースですが、「残業なし」などの配慮自体はありがたいけれど、それを受けると本人も周囲も「コースから外れた」と認識してしまうことがあるようです。いわゆるマミートラックですね。
でも、おっしゃるように時短勤務など配慮の必要な働き方を選んだからといって、ずっとそのルートを固定しなくてはならないわけではありませんよね。上司との間でも「そろそろ前の働き方に戻りたい」など、常に話をして、状況に即した働き方を選べるようにする。それぞれの事情への配慮はきっちりとするけれど、だからといってその人への期待を下げるということではなく、スペースの大事な一員であるというメッセージを伝えていくことが重要だと思います。

松尾また、今後グローバル展開を進めていくにあたっては、グローバル人材の育成も急務だと認識しています。文化や働き方の違いもあって、難しいところもあるのは事実ですが、力を入れていきたいと思っています。

嶋田これから20年30年先を考えると、お客様や投資家、社員にしても、確実に海外の方が増えていきます。その中で、色々な軋轢なども出てくるでしょう。そのときに大事なのは、変えるべきではないことと変えられることを切り分けること。どんなにぶつかってもスペースの価値や大事なカルチャーとして守らなくてはならないことと、従来のやり方にとらわれずに変えてもいいんじゃないかということをきちんと判断できないと、そこで成長が止まってしまうように思います。

お客様に寄り添って、同じ想いで共に創っていくという企業文化だけは絶対に曲げてはならないと思っていますが、それ以外の点では変わっていくことも必要なのかもしれません。

さらなるやりがいや安心を目指す

昨年のレポートで、「お客様の笑顔のためには従業員が笑顔にならなければならない」というメッセージを発信しました。
「従業員が笑顔でいる」ために何が必要ですか

「社員が生き生きと面白く働ける会社」の実現に向けて、これまでにも人事制度を柔軟に、時代に合わせて変えてきました。今回の改革で満足することなく、社員の皆さんが求めていることをしっかりキャッチしながら改善を重ね、全社員がやりがいを持って働ける会社にしていきたいと思っています。

松尾目指したいのは、スペースに入社してよかったと思ってもらえるような会社にすることです。それも、日々の中で達成感にあふれ、笑顔で働けるというだけでなく、日々の中では意識しないようなことも含めて、何十年か後、もう退職するような年齢になったときにも「やっぱりこの会社に入ってよかったな」と思ってもらえるようにしたい。そのために、誰もが失敗を恐れずチャレンジできるような制度、社風を醸成していきたいと考えています。

嶋田社員が働く上で不安を抱えていては、何も価値を生み出すことができません。安心して働けるように会社が全力を尽くす、絶対に守る、というメッセージを発信していくべきです。ダイバーシティとは「色んな人に入社してもらう」ことにとどまるものではなく、誰もが安心して働けるように会社自体が変わるということが着地点です。「どんな属性や事情を持った人でも、不安を持たずに働ける環境になっているか?」と、常に問い直す必要があるのだと思います。
そして、本当の意味で社員が笑顔になれるためには、仕事を通じて自分が価値を生み出していると実感できることが必要だと思います。目の前のことに没頭するだけではなく、時には顔を上げて「自分は今、こんなふうに社会に貢献できている」と考えられるようであってほしい。そんな余裕を誰もが持てるように、会社としてもサポートしていくべきだと思います。

  • 本ページに記載の部署・役職は原則としてダイアログ実施時点のものです。